介護職の残業について知っておくべきポイント!弁護士が詳細を解説
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「介護の仕事は残業して当たり前…。でも、やっぱりつらいな…」
「残業代は出てるけど、これって本当に正しい金額なのかな…」
このような疑問をお持ちの方はいらっしゃいませんか。なかには、「そもそも残業代が支払われていない」という方さえいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、労働基準法では労働時間にどのような規制があるのか確認したうえで、介護職において、本来労働時間として扱われるべきなのに、労働時間に含まれていない可能性のある時間について、解説いたします。
「介護職だから残業は仕方ない…」と諦めてしまう前に、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
- 今回の記事でわかること
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労働時間や残業代についての正しい法律知識
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介護職において不当に労働時間として扱われていない可能性のあるケース
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未払い残業代の請求を弁護士に依頼するメリット
- 目次
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あなたの職場は、労働時間の法的規制をきちんと守っていますか?
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(1)36協定の締結・届け出および残業時間の上限規制について
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(2)割増賃金の支払いについて
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労働基準法の規制が遵守されていない場合どうする?
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実はそれ、労働時間かも!残業代として割増賃金がきちんと支払われていますか?
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夜間の仮眠時間
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利用者の送迎時間
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利用者と一緒に過ごす休憩時間
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業務開始前の準備時間
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研修の時間
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未払いの残業代があれば請求するべき
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「請求はしたいけど、1人では不安…」という方は
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まとめ
あなたの職場は、労働時間の法的規制をきちんと守っていますか?
介護施設では、残業することが不可避であるともいえるでしょう。そこで、介護施設が介護職を含めた従業員に残業させることについて、法律上どのような規制があるのかという点から確認していきましょう。
まず、使用者が労働者に残業させるには雇用契約上、残業を義務づけていることに加え、労働基準法にて以下のような規制がされています。
(1)適法に労働者に法定労働時間を超えて残業させるには、36協定の締結・届け出が必要。そして、その残業時間に限度時間が設けられていること
(2)法定労働時間を超えて残業させたときなどには、使用者に割増賃金の支払いを義務づけ、労働時間の抑制を図っていること
したがって、介護施設を運営する使用者が、雇用した介護職の従業員に残業をさせるには、上記の(1)および(2)の労働基準法の規制を遵守しなければなりません。以下で詳しく説明いたします。
(1)36協定の締結・届け出および残業時間の上限規制について
労働基準法では第32条で、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。この労働時間の上限のことを「法定労働時間」といいます。使用者が法定労働時間を超えて労働者を働かせることは、原則として、第32条に違反し違法とされます。
しかし、労働基準法第36条によると、使用者と労働者との間で協定を結び、これを労働基準監督署に届け出すれば、“例外的に適法に”法定労働時間を超えて労働者を働かせる、すなわち残業させることができるのです。この使用者と労働者との間で締結される協定のことを「36協定(サブロク協定)」といいます。
ただし、この36協定の締結・届け出をしさえすれば、使用者は、労働者を無制限に残業させることができるわけではなく、原則として、月45時間、年360時間が限度とされます(労働基準法第36条第3項・第4項)。
特例として、36協定の特別条項により、臨時的で特別な事情のある場合、上記の限度時間を延長することができます。限度時間を延長できるとしても、以下の制限があります。
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1ヵ月で100時間未満かつ2ヵ月ないし6ヵ月平均で、いずれも月80時間以内である(同法第5項・第6項)
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年間では720時間以内である(同法第5項)
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月45時間を超えるのは、1年で6ヵ月以内である(同法5項)
このように労働時間には法律上の制限があるため、雇用契約上、あらかじめ労働者が各労働日において休憩時間を除き働かなければならないと定められた「所定労働時間」が「法定労働時間」を超えることは許されません。また、36協定を締結することなく、法定労働時間を超えて労働者を残業させることは違法となるのです。
そして、36協定の締結・届け出がされていたとしても、特別条項がなければ、月45時間・年360時間を超えて労働者を残業させることは違法となります。加えて、特別条項があったとしても、その条項に定められた臨時的で特別な事情が発生していないにもかかわらず、労働者に月45時間を超えて残業させることや、残業をさせなければならない事情が発生したときに、特別条項に定められた時間(上記①から③の範囲内で定められた時間)を超えて残業させることも、同じく違法とされます。
あなたの働く介護施設が、介護職の従業員を残業させるにあたり、必ずしもこのような労働基準法の規制を遵守できているとは限りません。そのため、「雇用契約書」あるいは「労働条件通知書」や、36協定の有無およびその内容を確認してみましょう。
36協定について詳しくは、こちらのコラムをご覧ください。
(2)割増賃金の支払いについて
労働基準法第37条第1項にて、法定労働時間を超えて残業させたときには、25%以上の割増賃金を上乗せした残業代を支払わなければならないと定めています。この法定労働時間を超えた残業のことを「時間外労働」といいます。
そして、労働基準法第35条第1項では、労働者に最低でも週1回の休日を与えなければならないとしています。この休日のことを「法定休日」といい、法定休日に労働者を働かせたときには、35%以上の割増賃金を上乗せした残業代を支払わなければなりません(同法第37条第1項および割増賃金令)。
また、労働者を午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に働かせたときには、法定労働時間を超えたか否かにかかわらず、25%以上の割増賃金を上乗せして賃金を支払わなければならないのです(労働基準法第37条第4項)。
介護職の従業員のなかには、入居型介護施設にて就労されている方もいらっしゃいます。やむを得ず時間外労働や休日出勤等の残業のみならず、深夜の時間帯に働くことも多いでしょう。そこで、残業代として割増賃金が支払われているのか、残業時間に見合った“適正な”割増賃金が支払われているのか、タイムカードなどの勤怠管理資料や給与明細を確認してみましょう。
労働基準法の規制が遵守されていない場合どうする?
36協定を締結せずに時間外労働などの残業をさせている、または36協定を締結しているものの限度時間を超えて残業をさせている場合、上司に相談したところで、介護施設がそうした“違法状態”を自ら解消することは期待できません。
そのため、介護施設に36協定の締結・届け出をしっかりさせることと、今後36協定の限度時間を超えて残業させないようにするためには、労働基準監督署に通報することが有効かもしれません。労働基準監督官から介護施設に対して是正勧告がなされれば、介護施設がこれに応じ、上記の労働基準法に違反する状態を解消できる可能性が高いといえます。
これに対し、介護施設が残業代として割増賃金の支払いをしていない、または残業代を支払っていたとしても残業時間に見合う適切な額の支払いがない場合は、少し注意が必要です。労働基準監督署に通報し、介護施設に対して是正勧告がなされ、介護施設がこれに応じ今後は割増賃金の支払いをするようになったとしても、“過去の未払い割増賃金の支払い”までは必ずしも期待できません。
というのも、労働基準監督署は、使用者に労働基準法などの法規を遵守させ、それに違反する状態を是正することを目的とする機関であるため、個々の労働者に対して実際に過去の未払い割増賃金が支払われるまで動いてくれるわけではないのです。
よって、会社に過去の未払い割増賃金を支払ってもらうためには、労働者自身で会社に対して未払い賃金の支払いを請求していくことになります。
なお、介護施設が変形労働時間制を採用している場合は、注意が必要です。1ヵ月や1年など一定の期間において、1週間あたりの所定労働時間が平均して40時間以内であれば、ある勤務日に法定労働時間の8時間を超えて働かせたとしても、それがただちに労働基準法に違反するわけではなく、必ずしも時間外労働として割増賃金が発生するとは限らないのです。
変形労働時間制について詳しくは、こちらのコラムをご覧ください。
実はそれ、労働時間かも!残業代として割増賃金がきちんと支払われていますか?
本来、労働時間と扱われるべきであるにもかかわらず、介護施設側が労働時間と扱わないことで、1日の労働時間が法定労働時間を超えないものとして計算された結果、割増賃金が発生していないことになっているケースがあります。
また、1日の労働時間が法定労働時間を超えているものの、残業時間が本来より短く計算されることで、割増賃金の支払いに不足が生じることもあります。
以下では、本来なら労働時間と扱われる時間であるにもかかわらず、介護施設側が労働時間に含んでいない可能性があるケースについて解説します。
夜間の仮眠時間
入居型介護施設では、夜間の宿直勤務に従事することがあります。宿直勤務時に休憩室などで仮眠している時間について、介護施設が労働時間として扱っていないと考えられます。
しかし、仮眠していても、入居者が部屋から呼び出しのブザーを鳴らす、入居者が徘徊して警報が鳴るなどの事態が発生したら、労働者は即時に対応することが義務づけられているでしょう。それなりの頻度でそのような対応をすることがあるのなら、たとえ仮眠時間であっても、その時間は労働時間として認められる可能性があります。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれていた時間をいい、そのように評価できるかは客観的に定まるものであり、労働契約や就業規則等の定め如何によって決められるとされます(三菱重工業長崎造船所事件・最判平成12年3月9日)。
警備員が事業場内で仮眠を取っている時間について、労働時間の該当性が争われた最高裁判決(大星ビル管理事件・最判平成14年2月28日)では、仮眠中であっても、労働契約に基づく義務として、仮眠室での待機および警報や電話に対してただちに相応の対応をすることが義務づけられており、その必要が生じることが皆無に等しいとの事情でもない限り、労働からの解放が保障されているとはいえないことを理由として、仮眠していた時間も、使用者の指揮命令下に置かれており、労働時間であるとされました。
上記のとおり、仮眠時にも呼び出し等への即時の対応が義務づけられ、実際にそれなりの頻度で即時対応することがあれば、結果的に何も対応することなく仮眠していたとしても、その時間も労働時間と認められる可能性があります。
もし、仮眠時間も労働時間だと認められれば、仮眠していた時間も含めて1日の労働時間が計算されることになるため、合計の労働時間が法定労働時間を超えると、残業代として割増賃金が発生することになります。介護職は特に、時間外労働が深夜の時間帯にかかることが多いと考えられるため、この場合、時間外労働と深夜労働の割増率が重複して適用され、50%以上の割増分を上乗せした割増賃金が発生するでしょう。
利用者の送迎時間
デイサービスの介護施設の多くは、自動車にて施設利用者の送迎を行っております。介護施設が定めた業務を開始する時刻(これを「所定始業時刻」といいます)より早い時間に施設利用者を迎えに行き、介護施設が定めた業務を終える時刻(これを「所定終業時刻」といいます)より遅い時間に施設利用者を送りに行くこともあるでしょう。
このような送迎は、介護職の従業員が自発的に行っているのではなく、介護施設の指揮命令により行っているといえるため、その時間は労働時間にあたります。
しかし、介護施設のなかには、所定始業時刻より前に施設利用者を迎えに行った時間や、所定終業時刻より遅い時間に送りに行った時間を、労働時間として扱っていないことがあります。
こうした送迎の時間も労働時間として扱い、改めて1日の労働時間を計算し、それが法定労働時間を超えていれば、残業代として割増賃金が発生することになります。
利用者と一緒に過ごす休憩時間
介護施設のなかには、介護職の従業員に対し、施設利用者と一緒に昼食をとらせ、食事を喉に詰まらせることがないか様子を見させていることがあります。食事を喉に詰まらせたときの即時の対応や、必要であれば食事の介助まで求めることもあるでしょう。そうした時間が、労働者の昼の休憩時間として扱われていることも多いです。
しかし、休憩時間とは、労働からの解放が保障されていることが必要です。そのため、施設利用者と一緒に昼食をとり、結果的に何も対応することがなかったとしても、食事を喉に詰まらせないか様子を見ており、喉に詰まらせたときには即時の対応などが求められることから、労働からの解放が保障されているとはいえません。
そうした利用者と一緒に過ごす休憩時間も労働時間として扱われるべきであり、これを前提として改めて1日の労働時間を計算し、それが法定労働時間を超えると、残業代として割増賃金が発生することになります。
業務開始前の準備時間
介護施設では、所定の始業時刻前に、介護用の作業服に着替える、またミーティングや引継ぎが行われていることがあります。たとえば入居型介護施設では、朝から出勤する介護職の従業員は、宿直勤務を終える者と、夜間の入居者の様子や特別に対応したことなどを共有するため、ミーティングや引継ぎをすることが多いでしょう。
所定始業時刻の前になされることを理由として、作業着へ着替える時間や、ミーティング・引継ぎなどの時間が労働時間として扱われていないことがあります。
しかし、いずれも業務に必要なものであり、その対応が従業員に義務づけられているといえるため、所定始業時刻前に行われていても、介護施設の指揮命令下に置かれていた時間として、労働時間と扱われます。ただし、実際には所定始業時刻前にミーティングや引継ぎが行われる頻度が少なければ、必ずしも業務に必要なものではなく、それらが従業員に義務づけられていたとはいえず、労働時間として扱われない可能性もあります。
このような作業着への着替えや、ミーティング・引継ぎの時間も労働時間として扱い、これを前提として改めて1日の労働時間を計算し、それが法定労働時間を超えていれば、残業代として割増賃金が発生することになります。
早朝出勤の給料について詳しくは、こちらのコラムをご覧ください。
研修の時間
介護施設で働く介護職の従業員は、さまざまな研修に参加し、場合によっては介護福祉士の国家資格やケアマネージャーの公的資格を取得するなどして、キャリアアップをしていきます。
このようなキャリアアップのための研修や勉強会を介護施設にて実施しており、研修・勉強会への参加が従業員の任意に委ねられているのであれば、その時間は自己研鑽のためのものとして労働時間とは扱われません。
しかし、研修等への参加が業務として組み込まれていたり、上司から個別に参加を指示されたりしたのであれば、参加が義務づけられているといえるため、研修等に参加した時間も介護施設の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間として扱われます。
そして、たとえ研修等への参加が従業員の任意に委ねられているとしても、参加しないと人事評価や賃金査定にて不利な評価を受けるという場合は、事実上参加が強制されているといえるため、研修等に参加した時間が労働時間として扱われる可能性があります。
上記のような研修への参加が義務づけられている、事実上参加が強制されているといった事情がある場合、研修等に参加した時間も労働時間として扱い、これを前提として改めて1日の労働時間を計算し、それが法定労働時間を超えると、残業代として割増賃金が発生することになります。
未払いの残業代があれば請求するべき
本来は労働時間として扱われるべき時間を、介護施設側が労働時間として扱わないことなどにより、残業代として割増賃金が発生しているにもかかわらず、きちんと支払われていなければ、介護施設に対し、未払い割増賃金の支払いを求めるべきです。
こうした残業代の支払いを受けることは、労働者の正当な権利ですので、介護施設に未払い賃金を請求することに何ら負い目を感じる必要はありません。
もし、現在就労されている介護施設から早期に退職することをお決めになっている方は、残業代を請求することで働きづらくなる点を気にされることもありませんので、なおさら請求するべきといえます。
「請求はしたいけど、1人では不安…」という方は
介護施設に残業代を請求するにしても、ご自身だけで対応するのはとても大変です。
残業代を請求するには、各労働日における労働時間をすべて計算したうえで、未払いの残業代を算定することが必要です。その作業だけでも多大なる労力と時間を要しますし、労働基準法の正確な知識も求められます。そして、介護施設側からの反論に対しても、専門的知識がないと的確な対応が困難であり、介護施設側とのやり取りをするだけでも、時間のみならず精神的負担もかかります。
そこで、法律の専門家たる弁護士への依頼を検討しましょう。そうすることで、弁護士が面倒な労働時間の計算もやってくれますし、介護施設の反論にも的確に対応します。協議交渉(話合い)で解決せず裁判に移行したときにも、弁護士がそのまま対応してくれます。
まとめ
介護施設では、残業が習慣化しているところもあるでしょう。労働基準法では労働時間について規制をしているものの、すべての介護施設がこの規制を遵守しているとは限らないため、残業代として割増賃金が発生しているにもかかわらず、きちんと支払われていないことが多いです。
また、本来なら労働時間として扱われるべきなのに、労働時間に含まれないとみなされることで、残業代が未払いとなっているケースが多く見受けられますが、どこまでが労働時間に該当するかの判断には、専門的知識が必要です。そこで、労働トラブルに詳しい弁護士に依頼して、介護施設に対して未払いの残業代を請求していくべきです。
アディーレ法律事務所では、労働事件の取扱いに慣れた専属の部署があり、これまで事件を解決してきた豊富な実績があります。プライバシーを厳守しており、ご相談内容が第三者に漏れることはございませんので、安心してご相談いただけます。
さらに、ほかの多くの法律事務所では依頼時に必要とされる着手金(弁護士に依頼した段階で支払われ、案件の結果に関わらず必要な費用)を、アディーレではいただいておりません。相手方より獲得した経済的利益(未払い賃金や解決金など)から弁護士費用をお支払いいただく成功報酬制ですので、事前にお金をご用意いただく必要はありません。仮に、相手方から獲得できた経済的利益が弁護士費用を下回るときには、経済的利益を超えた分の弁護士費用を追加でいただくことはございませんので、費用面が気になる方もご安心ください。ご相談は何度でも無料ですので、残業代請求をお考えの方は、一度アディーレ法律事務所にご相談ください。
監修者情報
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資格
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弁護士
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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中央大学法学部
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。