変形労働時間制の「残業」はどこから?残業代が出る3つのパターン
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変形労働時間制は、会社の繁忙期や閑散期に合わせて日ごとの所定労働時間を設定する制度です。適切に運用されていれば無駄のない働き方ができるため、労働者にとってはライフワークバランスを保ちやすいという点で、会社にとっては残業代の支払いを削減できる点でメリットがあります。しかし、一方で「制度の仕組みがややこしく、正しく理解できていない」、「会社から『変形労働時間制を採用しているから残業代は支払わない』と言われたが、適切なのかわからない」という方も少なくありません。
実際には、会社が「変形労働時間制を採用している」と言っているものの、本来支払われるべき残業代が支払われていないケースもあります。このコラムでは、変形労働時間制はどんな制度なのかをわかりやすく解説しています。また、「変形労働時間制では、1日どれだけ働くと残業になるの?」という疑問にもお答えしていますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 今回の記事でわかること
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変形労働時間制とフレックスタイム制・シフト制との違い
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変形労働時間制でも残業代は発生する
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変形労働時間制で残業代が発生する具体的なパターン
- 目次
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変形労働時間制ってどんな制度?
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フレックスタイム制との違い
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シフト制との違い
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変形労働時間制の種類
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1年単位の変形労働時間制
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1ヵ月単位の変形労働時間制
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1週間単位の非定型的変形労働時間制
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どこから残業?変形労働時間制で残業代が出る3つのパターン
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法定労働時間を超える所定労働時間が定められた期間に所定労働時間を超えて働いた場合
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法定労働時間を超えない所定労働時間が定められた期間に法定労働時間を超えて働いた場合
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定められた変形労働時間制が法律上の条件を満たさず無効である場合
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未払い残業代に心当たりがあれば、弁護士にご相談ください
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アディーレの弁護士が残業代の計算から請求まで対応します
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まとめ
変形労働時間制ってどんな制度?
通常、1日8時間、1週間40時間を超えて働かせた場合、会社は労働者に対して残業代を支払わなければなりません。つまり、繁忙期と閑散期がはっきりしている会社は、繁忙期に必ず残業代を支払わなければならいということです。そこで、会社は繁忙期と閑散期に合わせて所定労働時間を設定できる「変形労働時間制」を採用することがあります。
変形労働時間制は、週、月、年単位で、ある日については所定労働時間数を10時間、ある日については所定労働時間を6時間などと設定し、労働時間が所定労働時間数を超えない限りは残業代を支払わなくてもよいという制度です。たとえば、水曜日は必ず忙しいがそれ以外の曜日はそれほど忙しくない会社では、水曜日の所定労働時間を10時間、そのほかの曜日の所定労働時間を6時間に設定するなどが考えられます。
似たような制度として、フレックスタイム制とシフト制が挙げられますが、どちらも変形労働時間制とは異なる制度です。では、どんな違いがあるのか見ていきましょう。
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制とは、一定の期間内に一定の時間数、労働をすることを前提として、各日の始業・終業時刻の決定(労働時間の決定)を労働者に委ねる制度です。
1日8時間、1週40時間を超えた労働があっても残業代を支払わなくてよいという点では変形労働時間制と共通しますが、所定労働時間を会社が定めるか、労働者の裁量に委ねるかという点に違いがあります。
なお、フレックスタイム制の場合でも一切残業代を支払わなくてよいわけではありません。フレックスタイム制で残業代が発生するケースについては、下記のコラムをご覧ください。
シフト制との違い
シフト制は、労働日により異なる所定労働時間を設定するという意味で、変形労働時間制と似ている制度です。しかし、変形労働時間制は、1日8時間、1週40時間を超えた場合も残業代を支払わなくてよいという労働基準法上の制度であるのに対して、シフト制の場合は、労働基準法の原則どおり、1日8時間、1週40時間を超えて働かせた場合には残業代を支払わなくてはいけないという点で大きく異なります。
変形労働時間制の種類
一定の期間を定める必要がある変形労働時間制には、「1年単位の変形労働時間制」「1ヵ月単位の変形労働時間制」「1週間単位の変形労働時間制」の3種類があります。それぞれルールが異なるので、詳しく解説していきます。
1年単位の変形労働時間制
「1年単位の変形労働時間制」では、1年のなかの繁忙期、閑散期に合わせて労働時間を調整します。1年単位の変形労働時間制を採用するには、労働契約または就業規則で1年単位の変形労働時間制を採用する旨が定められていることに加え、労使協定などで以下について定める必要があります。
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変形労働時間制で労働させることができるとされる労働者の範囲
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対象期間およびその起算日
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特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な時期)およびその起算日(定める場合のみ)
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対象期間における労働日および当該労働日ごとの労働時間の特定
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有効期間
また、1年単位の変形労働時間制には、以下の制限があります。
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対象期間中の労働時間は、平均して1週間あたり40時間以内
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対象期間が3ヵ月を超える場合、対象期間内の所定労働日数は原則として1年あたり280日が上限
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1日の労働時間は10時間まで(タクシー運転手などが隔日勤務などの一定要件を満たす場合、1日の労働時間は16時間まで許容)
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1週間の労働時間は52時間まで
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対象期間が3ヵ月を超える場合、労働時間が48時間を超える週が連続するのは3週まで
さらに、変形労働時間制を採用するにあたって、一度特定された労働日や労働時間を変更することは許されないと考えられています。
1ヵ月単位の変形労働時間制
「1ヵ月単位の変形労働時間制」では、1ヵ月のなかで忙しさに合わせて労働時間を調整します。1ヵ月単位の変形労働時間制を採用するには、労働契約または就業規則で1ヵ月単位の変形労働時間制を採用する旨が定められていることに加え、以下について定める必要があります。
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1ヵ月以内の一定の期間を平均し1週間あたりの労働時間が週法定労働時間(原則として40時間)を超えないこと
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変形期間における各日・各週の労働時間
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変形期間の起算日
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有効期間(労使協定による場合のみ)
上記については、労使協定、就業規則、その他これに準じるものにより定められなければなりません。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
「1週間単位の変形労働時間制」では、1週間のなかで忙しさに合わせて労働時間を調整します。1週間単位の変形労働時間制を採用するには、以下の条件を満たす必要があります。
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会社の事業が、小売業、旅館、料理店または飲食店のいずれかであること
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会社が常時使用する労働者数が30人未満であること
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労使協定等により、1週40時間の範囲内で、1日10時間まで労働させることができる旨を定めたこと
なお、1週間単位の変形労働時間制を採用する1週間が開始する前に、書面により通知をする必要があります。また、緊急でやむを得ない事由があり、会社が労働者に対しあらかじめ通知した労働時間を変更する場合、変更する日の前日までに変更する労働時間を書面により通知する必要があります。
どこから残業?変形労働時間制で残業代が出る3つのパターン
このように、変形労働時間制は、一定期間内で所定労働時間を変形させる制度です。そのため、決められた一定の期間内で週40時間または1日8時間を超えていても、超えた時間が時間外労働とはならず、残業代は支払わなくてよいことになります。ただし、「どれだけ働いても残業代は出ない」ということではなく、残業とみなされた時間については適切に残業代が支払われなければなりません。しかし、時期によって所定労働時間が変動する変形労働時間制では、どんな場合に残業とみなされ、残業代が支払われるのか、曖昧になりがちです。ここからは、変形労働時間制で残業代が出る3つのパターンについて、解説していきます。
法定労働時間を超える所定労働時間が定められた期間に所定労働時間を超えて働いた場合
たとえば、ある日について、1日10時間の所定労働時間であったとします。
この場合、10時間以内の労働について残業代は発生しませんが、10時間を超えた労働があった場合には残業代を支払う必要があります。
【所定労働時間が10時間の日】
なお、変形労働時間制であっても、休日手当や深夜手当は別途支払う必要があります。
法定労働時間を超えない所定労働時間が定められた期間に法定労働時間を超えて働いた場合
たとえば、ある日の所定労働時間が7時間とされていた場合は、通常と同様、8時間を超えた労働があった場合には残業代を支払う必要があります。
なお、この場合、7時間を超え8時間以内の部分の労働についても、時給換算分の給与を支払う必要があるというのが一般的な見解です。これを、法内残業などといいます。
【所定労働時間が7時間の日】
定められた変形労働時間制が法律上の条件を満たさず無効である場合
「2.変形労働時間制の種類」でご説明した、変形労働時間制を有効とするための条件や、そのほか法律上の条件を満たさない場合には、定められた変形労働時間制は無効となります。そのため、通常どおり、1日8時間、週40時間を超える労働に対しては残業代を支払う必要があります。
未払い残業代に心当たりがあれば、弁護士にご相談ください
このように、変形労働時間制であっても、残業代が発生する場合があります。しかし、あなたが働いている会社が採用している変形労働時間制が、法律上適法なものかどうかご自身で判断するのは難しいでしょう。また、変形労働時間制が採用されている場合、残業代の計算も、通常より複雑です。そのため、会社から「うちは変形労働時間制を採用しているから、残業代は出ない」と言われた方は、ぜひ一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
アディーレの弁護士が残業代の計算から請求まで対応します
アディーレでは、労働問題に詳しい弁護士が、残業代の計算や交渉まで一貫して対応いたします。これまでにお受けした残業代請求のご依頼のなかには、変形労働時間制であることを主張する会社から残業代を獲得できた実績もありますので、安心してお任せください。残業代に関するご相談は何度でも無料です。ご相談いただいた結果、変形労働時間制が適法に定められており、計算上の未払い残業代がなかったとしても、費用がかかることはありませんので、お気軽にご相談いただけます。
まとめ
これまで解説してきたように、変形労働時間制は、業務に忙しさの波がある業種などで、必要に応じて労働時間の長短を調整するために作られた制度です。そして、本来は、会社による労働時間の調整を容易にするだけでなく、平均した週の労働時間を法定労働時間以下に抑えることで、労働者の総実労働時間の短縮を図ることを目的としています。
しかし、実際には、適法に運用されていないことも少なくありません。そして、変形労働時間制では、適法・違法や、未払い残業代の有無を判断するのは難しい場合が多いです。
そのため、「自分にも未払いとなっている残業代があるのでは?」と疑問を抱かれた方がいらっしゃれば、弁護士へのご相談をおすすめします。
アディーレなら、残業代請求に関するご相談は何度でも無料です。ぜひお気軽にご相談ください。
監修者情報
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資格
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弁護士
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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南山大学経営学部、中央大学法科大学院
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