退職代行で即日退職できる?仕組みと注意点を弁護士が解説
公開日:
更新日:
仕事のストレスや職場の問題で悩み、「今すぐに会社を辞めたい」と思っている方のなかには、退職代行サービスの利用を検討している方も多いのではないでしょうか。
しかし、「本当にその日に辞められるの?」という不安もあると思います。
この記事では、弁護士の目線から、退職代行を使った即日退職の仕組みや、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。この記事を読めば、あなたの不安が解消するかもしれません。ぜひ最後までご覧ください。
- 今回の記事でわかること
-
-
退職代行を使った即日退職の方法
-
即日退職に伴うリスクと注意点
-
弁護士による退職代行のメリット
- 目次
-
-
退職代行の「即日退職」とは?法律上の位置づけ
-
退職代行で「実質的に」即日退職する方法
-
有給休暇を使う方法
-
欠勤する方法
-
やむを得ない事由による即日退職(有期雇用の場合)
-
退職代行サービスを使った場合の退職の流れ
-
相談する
-
契約する
-
代行業者が会社に連絡する
-
退職に関する交渉を進め、退職日を迎える
-
退職代行で即日退職を目指す際の注意点
-
会社が即日退職に合意しない可能性がある
-
損害賠償を請求されるリスクがある
-
「即日対応」でも「即日退職」できるとは限らない
-
弁護士に退職代行を依頼するメリット
-
法的に適切な対応が可能
-
未払いの残業代請求も依頼可能
-
トラブルになりにくい
-
まとめ
退職代行の「即日退職」とは?法律上の位置づけ
退職代行業者のなかには、「即日退職」が可能であるとアピールしているところが見受けられます。法律等で明確な定義のある用語ではありませんが、「即日退職」とは、通常、退職の意思を伝えたその日のうちに会社を退職する(会社との雇用関係を終了する)ことをいいます。
退職代行を利用した場合でも、即日退職をすることが可能なケースは確かにあります。
それは、即日退職することについて、会社との間で合意を得られた、という場合です。
会社としては、必ずしも即日退職に応じる義務はありません。しかし、退職意思の固い労働者をあえて一定期間(後述のとおり、無期雇用契約なら2週間、有期雇用契約なら契約満了までの期間)在籍させておくメリットも多くないこと、また、有給休暇が消化されないため、その分の賃金支払い義務も生じないことから、即日退職に合意してもらえるケースも一定数あります。
では、会社が即日退職に合意しない場合、どうすればよいのでしょうか?
即日退職の代わりに採ることができる方法について、以下で詳しく解説します。
退職代行で「実質的に」即日退職する方法
ご相談の際に「即日退職」をご希望されている方からお話を伺うと、その理由は「退職を伝えたあとで出勤すると、職場で嫌がらせを受けそう」、「精神的につらいので、もう1日たりとも会社で仕事をしたくない」といった点にあることが大半です。
この場合、必ずしも法的な意味での退職、つまり「会社との雇用関係を終了すること」まで即日実現しなければならないわけではありません。
ここからは、これらのご希望を叶える観点から、「退職の意思を伝えたその日から、1日も出勤して仕事をすることなく退職日を迎えること」が可能な方法を中心にご説明します。
有給休暇を使う方法
無期雇用契約の場合、法律上は、退職の申入れから2週間経過すれば退職が認められます(民法第627条第1項後段)。したがって、会社が退職について合意しなかったとしても、2週間待つことで退職することが可能です。
この規定をもとに、「2週間後(またはそれよりも先の日)を退職日として退職する」として退職を申し入れたうえ、退職日までの期間を有給休暇にする、という方法が考えられます。
このような方法により、退職を申し入れたその日から、会社に行かなくて済むことになります。
なお、有期雇用契約で、契約満了までの残り期間が短いような場合も、その期間を有給休暇とすることで、同様の結果が期待できます。
法律上、有給休暇の取得を会社が断ることはできません。
また、会社には「時季変更権」といって、申請どおりの日に有給休暇を取得されると業務に支障がある場合に、日程を変更して有給休暇を取得させることができる権利があります(労働基準法第39条第5項但書)。
しかし、退職直前の労働者が、退職日までの全期間について有給休暇を申請した場合、もはや日程の変更先が無いため、会社は時季変更権を行使できません(昭和49年月11日基収5554号)。
したがって、申請どおり退職日までの全期間について、有給休暇の取得が認められるのです。
欠勤する方法
無期雇用契約で、有給休暇と所定の休日を足しても2週間も満たない場合には、欠勤する方法も選択肢の一つです。退職代行業者が会社に退職の意思を伝えたあと、退職日まで欠勤することで、職場での嫌がらせや気まずい思い、残務処理などを心配することなく、退職を実現することができます。
有期雇用契約で、契約満了までの残り期間が短いような場合についても、同様の方法が考えられます。
ただし、欠勤する場合には退職日までの間の給与が発生しないため、注意が必要です。また、長期間欠勤したことを理由に、会社が解雇に及ぶ可能性もあります。この場合、離職票において、退職理由を「自己都合退職」ではなく「解雇」と記載されてしまうリスクはありますが、いずれにせよ、会社との雇用関係は終了することができます。
やむを得ない事由による即日退職(有期雇用の場合)
有期雇用契約の場合、「やむを得ない事由」があれば、ただちに退職することができるとされています(労働基準法第628条前段)。
そこで、有期雇用契約、かつ、契約満了までの残り期間が長いような場合には、退職代行業者から「やむを得ない事由」があるので、即日退職する」と申し入れて、即日退職を目指すこととなります。
この場合、会社から「『やむを得ない事由』はないと考えているので、即日退職には応じられない」と反論され、交渉がまとまらない可能性もあります。
したがって、無期雇用契約において、2週間が経過すれば必ず退職できるのと異なり、会社の対応によっては契約満了前の退職ができない場合もあるため、注意が必要です。
退職代行サービスを使った場合の退職の流れ
退職代行サービスを使って退職する場合、典型的には以下のような流れで退職手続が進みます。各ステップで注意すべき法的ポイントも押さえておきましょう。
相談する
多くの退職代行サービスでは、まず無料相談を行います。
この段階で、自分の状況に退職代行サービスが適しているか、どのようなサポートが受けられるかを確認できます。
労働問題に詳しい弁護士による退職代行であれば、専門知識に基づいた法的なアドバイスも得られます。
相談の際は、退職理由や希望する退職日など、具体的な要望を明確に伝えましょう。
必須ではありませんが、労働契約の内容や就業規則など、詳細な情報を準備し、自分の状況を詳しく伝えられると、より理想的です。
契約する
相談したうえで依頼することに決めた場合には、契約を締結します。
料金の支払いに関しては、前払いが一般的ですが、成功報酬制を採用している退職代行サービスもあります。
料金は業者やサービス内容によって大きく異なり、数万円から十数万円まで幅広いため、事前に十分な確認が必要です。
また、一見とても安い業者でも、サービスの範囲が限られていた、有資格者のアドバイスを全く受けられなかった、有資格者しか行えないはずのサービスを提供する違法な業者だった、などの落とし穴があるので、注意してください。
代行業者が会社に連絡する
退職代行業者が会社に連絡し、退職の意思を伝えます。この段階では、労働者本人が直接会社とやり取りする必要はありません。代行業者が代わりに会社とやり取りをしてくれます。
退職に関する交渉を進め、退職日を迎える
弁護士による退職代行であれば、退職の意思を伝えるだけでなく、有給休暇の消化などについても法律に則って交渉をしてくれます。「引継ぎをしてほしい」「○○の費用を支払ってほしい」など、会社から要求を受けることもありますが、これらに対しても、法的根拠に基づいて的確に反論していくことが可能です。
退職代行で即日退職を目指す際の注意点
即日退職を想定して退職代行に依頼する場合には、いくつかのリスクや注意点があります。これらを理解し、適切に対処することが大切です。
会社が即日退職に合意しない可能性がある
即日退職する場合、残った業務の処理や、引き継ぎができません。
そのため、会社としては業務へ大きな影響が出ることを懸念するかもしれません。そうなれば、即日退職の申入れに対し会社が合意せず、退職日についての話合いを求めてくる可能性があります。
さらに、即日退職できることを前提に、転職先への入社日を設定していた場合、即日退職に会社が合意しなければ、入社日までの間に退職することができず雇用関係が二重に存在することとなり、転職先との関係でもトラブルが生じます。
転職先への入社日は、退職を申し入れる日から少なくとも2週間以上後に設定しておくことをおすすめします。
損害賠償を請求されるリスクがある
退職申入れをした日以降、退職日まで欠勤することとした場合、それによって会社に損害が生じたとして、会社から損害賠償を請求されるリスクがあります。
特に、重要な仕事が間近に予定されているなかで、十分な引継ぎなく退職する場合などは注意が必要です。
裁判において損害賠償義務が認められるためには、会社側が、実際に損害が発生した事実や、その損害が退職日までの欠勤によって生じたこと(因果関係)などを証明する必要があり、ほとんどの場合、これらの証明は容易ではありません。
もっとも、最終的に損害賠償義務が認められるおそれは少ないとしても、会社から損害賠償請求を受け、その対応に追われること自体がかなりの負担になるはずです。
退職申入れをした日以降出勤せずに退職することを目指す場合は、事前に引継ぎ資料を用意し会社に置いておくなど、あらかじめ適切に対応を尽くしておくと安心です。
なお、民間業者による退職代行サービスでは、このようなトラブルが起きた際に会社との交渉ができないため注意しましょう。
「即日対応」でも「即日退職」できるとは限らない
なかには、「即日対応可能」と謳っている退職代行サービスもあります。
「即日退職」はその日に退職することですが、「即日対応」は退職代行業者が依頼を受けたその日のうちに対応を始めることです。
即日対応可能でも、状況によっては必ずしも即日退職できるとは限らないため注意しましょう。
弁護士に退職代行を依頼するメリット
有休消化などの法的交渉が必要な場合や、会社が退職手続を強く拒否する可能性がある場合、会社から請求を受けるおそれがあるなど法的リスクが高い場合は、弁護士による退職代行サービスを利用するのが賢明です。弁護士に依頼することで、よりスムーズな退職を目指すことができます。
法的に適切な対応が可能
民間の退職代行業者ができるのは、退職の意思を会社に伝えることだけです。会社との交渉や法的トラブルの対応はできません。
弁護士であれば、会社との交渉が必要な場合や、万が一損害賠償を請求された場合も、適切に対応することができます。
未払いの残業代請求も依頼可能
弁護士であれば退職代行サービスに加えて、未払いの残業代を請求することも可能です。
これまで残業代がきちんと支払われていなかった場合などには、残業代請求も併せて弁護士に依頼することをおすすめします。
トラブルになりにくい
弁護士であれば、法律に基づいて退職の交渉を行えます。会社側があえて法律を無視した要求や主張をしてくることも少なく、トラブルになりにくいといえるでしょう。
万が一トラブルが発生した場合も、弁護士であれはすぐに法的対応を取ることができます。
これにより、依頼者の方の権利を守りつつ、スムーズな退職を目指すことができます。
まとめ
退職代行サービスを使えば、ケースによっては依頼したその日から会社に出勤せず、そのまま退職日を迎えることも可能です。
ただし、場合によっては、退職を申し入れたあとも会社との交渉が必要なケースもあるため、弁護士による退職代行の利用がおすすめです。
退職に関して悩みや不安がある方は、労働問題に詳しい弁護士が在籍しているアディーレ法律事務所に相談してみてください。経験豊富な弁護士が、あなたの状況に合った最適な解決方法を提案し、退職をサポートいたします。
監修者情報
-
資格
-
弁護士
-
所属
-
東京弁護士会
-
出身大学
-
東京大学法学部、東京大学法科大学院
裁判に関するニュースに寄せられた、SNS上のコメントなどを見るにつけ、法律家が法的な思考をもとに下した判断と、多くの社会一般の方々が抱く考えとのギャップを痛感させられます。残念でならないのは、このようなギャップを「一般人の無知」と一笑に付すだけで、根本的な啓発もなく放置したり、それを利用していたずらに危機感を煽ったりするだけの法律家が未だにいることです。法の専門家として、専門知を独占するのではなく、広く一般の方々が気軽に相談し、納得して、法的解決手段を手に取ることができるよう、全力でサポートいたします。