【弁護士解説】退職するときに損害賠償を請求されることはある?
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「退職したいけど、会社から損害賠償を請求されないか心配…」
「『退職するなら損害賠償請求するぞ!』と脅されている…」
このようなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか。
そこで今回は、「損害賠償を請求されたとき、実際にどうすべきか」や、「損害賠償請求されるリスクを下げる方法」などについてご紹介します。
損害賠償について知ることで、請求されるかどうか心配する必要もなくなるかと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
- 今回の記事でわかること
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退職時に損害賠償を請求された場合、応じる必要があるかどうか
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退職時に損害賠償を請求されるおそれがあるケース
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損害賠償を請求されるリスクを下げて退職する方法
- 目次
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退職時に損害賠償を請求されたら、本当に払わないといけない?
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退職時に損害賠償を請求されるかもしれないケース
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退職に伴う理由で請求されるケース
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退職によって会社の仕事に穴を開けたときは?
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退職とは関係のない理由で請求されるケース
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在職中、社用車や会社の備品を壊してしまった場合
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会社の金を横領したなどの非違行為があった場合
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損害賠償を請求されるリスクを抑えて退職するには?
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引継ぎをきちんとする
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誓約書への署名を求められても安易にサインしない
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弁護士に退職代行を依頼する
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まとめ
退職時に損害賠償を請求されたら、本当に支払わないといけない?
会社に対して退職すると伝えた際、「辞めるなら、損害賠償を請求する!」と言われること自体は、決して珍しいことではありません。
しかし、ご安心ください。多くの場合、それは退職を断念させるためや、感情的なもつれから、そういった強い言い方をしているに過ぎません。“本当に”損害賠償請求をしてくる会社は、滅多にないのです。
会社側も当初は頭に血がのぼっていますが、徐々に冷静になります。退職する一従業員に執着して、弁護士費用を払ってまで損害賠償請求をすることなどそうそうありません。
退職時に損害賠償を請求されるかもしれないケース
ただし一部のケースでは、本当に損害賠償されることがあります。
退職に伴う理由とそうでない理由に分けて、それぞれご説明しましょう。
退職に伴う理由で請求されるケース
例外的に損害賠償義務が生じるのは、次のような場合です。
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あなたが、自分しか知らない情報を有する役職者や営業職で、引き継ぎをせずに退職する場合
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あなたが、有資格者(たとえば医師)などであり、有期雇用契約の雇用期間満了を待たずに退職しようとする場合
このような場合は、慎重に会社と交渉する必要があります。自分だけで対処しようとするのはおすすめできません。損害賠償請求に詳しい弁護士に相談するなど、適切な対応を心がけましょう。
退職によって会社の仕事に穴を開けたときは?
先ほどお話したような条件に当てはまらないにもかかわらず、「あなたの退職によって、仕事に穴が開いた。損害賠償を請求する!」と会社が主張してくることがあります。しかし、そのような賠償請求は、基本的には認められません。
憲法は職業選択の自由を保障していますし、無期雇用契約の解約について定めた民法第627条も「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。」と規定しています。そのため、労働者は、原則として自由に退職できるのです。
会社としては、従業員がいつでも退職し得ることをあらかじめ織り込んだうえで、組織運営をしておかねばなりません。それを怠ったリスクは、会社自身が負って然るべきです。
したがって、退職により会社の仕事に穴が開き、損害が生じたとしても、その損害は会社が負うべきなのです。原則として、労働者が損害賠償請求に応じる必要はありません。
退職とは関係のない理由で請求されるケース
次に、退職とは直接関係のない理由、たとえば在職中の行動などから請求されるケースを見ていきましょう。
在職中、社用車や会社の備品を壊してしまった場合
社用車や備品の修理代を、退職時に損害賠償として請求されることがあります。
もっとも、実際に会社が、このような損害の賠償を退職者に請求することは、容易ではありません。
会社は、従業員を使って利益を上げている以上、その従業員の軽微なミスにより生じた損害もまた負わなければなりません。これを「報償責任の原則」といいます。この原則により、たとえ労働者の軽微なミスにより損害が生じても、会社からの賠償請求は制限されるのです。
また、仮にミスが比較的重大で、従業員が修理代を払わなければならない場合だとしても、従業員だけが全額を払うのではなく、会社も一部を負担すべきです。
のちにご説明しますが、弁護士に退職代行を依頼いただければ、損害賠償金額をできるだけ少なくしたり、有給残日数と損害賠償金額とを相殺したりするよう、交渉することが可能です。
会社の金を横領したなどの非違行為があった場合
「会社の金を横領した」、「備品を勝手に売却した」などの非違行為があった場合、実際に損害賠償を請求される可能性が高まります。
ただしこの場合であっても、会社側が損害や因果関係について立証しなければならず、その負担は決して軽くありません。会社側も、できるだけ裁判沙汰にはせずに、交渉で解決したいと思っています。
そのため、行為の悪質性が高く、損害賠償請求がある程度現実味を帯びている場合であっても、弁護士が退職者と会社の間に入り、裁判沙汰を回避したり、損害賠償金額を減額してもらったりする交渉を行うことが可能です。
損害賠償を請求されるリスクを抑えて退職するには?
労働者側が、損害賠償に応じなければならないケースは少ないとはいっても、請求されないに越したことはないでしょう。また、損害賠償を請求されなくとも、会社側とのトラブルは避けたい方がほとんどかと思います。
そこで最後に、損害賠償を請求されるリスクを抑え、安心して退職するためのポイントや方法をご紹介いたします。
引継ぎをきちんとする
引継ぎをしないことは、会社から「損害賠償を請求する!」とか「退職金を払わない!」と言われてしまう典型的な場合です。
無用な損害賠償請求を避けるためにも、自分しか知らない業務内容に関しては、確実に引継ぎを行うようにしてください。
誓約書への署名を求められても安易にサインしない
会社が、秘密保持や競業禁止の条項の入った誓約書にサインを求めてくることがあります。
しかし、原則として、このような誓約書にサインする義務はなく、またサインしなくても退職することはできます。
かえって、誓約書の内容をよく読まずにサインしてしまうと、これを根拠に、会社から後々損害賠償請求されることにもなりかねません。
誓約書へのサインを求められたら、まずは、きっぱりと断りましょう。サインしないとどうしても辞めさせないと言われ、退職手続が滞るような場合は、専門家に誓約書を見てもらい、サインしても大丈夫かどうかアドバイスを受けましょう。
弁護士に退職代行を依頼する
会社が退職者に対して「損害賠償を請求する!」と言っている場合、感情的なわだかまりが根底にあることが多く、当事者である退職者が会社と交渉しても、なかなかうまくいきません。
そこで、損害賠償請求されるリスクを回避する一つの有力な手段として、弁護士に退職代行を依頼することが挙げられます。
この点、弁護士以外の非弁業者に退職代行を頼んでしまうと、損害賠償請求された場合の交渉などをすることはできません(弁護士法第72条違反となります)。そのため、損害賠償請求をされそうな不安がある場合は、弁護士にご依頼ください。
退職代行を弁護士に依頼した場合とそうでない場合の違いについては、下記のコラムで詳しい解説しております。ぜひ併せてご覧ください。
まとめ
退職に際して、会社から損害賠償請求されることは珍しくありません。そして、その多くが嫌がらせにとどまるものであり、実際に損害賠償請求をされることはまれです。そうはいっても、会社が電話や書面で「損害賠償請求をする!」と言ってきたら、さぞ不安だろうと思います。そのような場合は、ぜひ弁護士にご依頼ください。
アディーレ法律事務所では、退職代行のご依頼も随時お受けしております。ご相談は何度でも無料ですので、ぜひお気軽にお問合せください。
監修者情報
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資格
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弁護士、行政書士(有資格)、華語文能力試験高等(台湾)
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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早稲田大学第一文学部、台湾大学大学院法律研究所、早稲田大学大学院法務研究科
人が法律事務所の門を叩くときは、どんな時でしょうか。もちろん個人によってさまざまなご事情があるでしょうが、人生において何か一つ区切りをつけて新たな出発をしたいと強く願っている点では、共通していると思います。先行きの見えないこんな時代だからこそ、その出発が希望に満ちたものでありますように。そのお手伝いをさせていただくことこそが弁護士の役割だと思っております。