残業代って何?基本的な仕組みを理解しよう
残業代は、大まかにいえば、以下の場合に支払われる賃金のことです。
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法定労働時間を超えて働いた場合
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休日に働いた場合
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深夜に働いた場合
法定労働時間について、労働基準法では、1日8時間、1週40時間と定めています。これを超える労働が「残業」となります。
たとえば、9時から19時まで勤務した(途中で休憩1時間を取得)場合、18時以降の労働が残業になります。
ただし、変形労働時間制などの特殊な制度のもとでは、この基準が変わることがあります。この点については、のちほど詳しくご説明します。
残業代の種類は?いつどんなときに発生する?
一般的に「残業代」と呼ばれる賃金には3種類あります。労働基準法に基づき、法定時間外労働、休日労働、深夜労働の3種類の労働に対しては、それぞれ割増賃金を支払う必要があるのです。
具体的な割増率や計算方法は、労働の種類によって異なります。以下、それぞれのケースについて詳しく説明します。
時間外労働をしたときの割増賃金(A)
法定時間外労働に対する割増賃金は、通常の賃金の25%増しです。上述したように、法定労働時間は1日8時間1週40時間ですから、このいずれかの時間を超える労働時間に適用されます。
たとえば、時給1,000円の労働者が、法定労働時間を超えて2時間労働した場合は、 1,000円 × 1.25 × 2時間 = 2,500円の残業代が発生します。
ただし、1ヵ月60時間を超える残業については、割増率が50%以上に引き上げられます(中小企業の場合は、2023年4月から適用)。
休日に働いたときの割増賃金(B)
労働基準法は、原則として1週間に1日の休日を設けなければならないと定めています。この休日を法定休日といいます。法定休日に労働した場合、35%増しの割増賃金が支払われます。
たとえば、時給1,000円の労働者が、ある週の日曜日から土曜日まで7日とも勤務しており、土曜日の労働時間が6時間だった場合 は、1,000円 × 1.35 × 6時間 = 8,100円の残業代が発生します(ただし、特定の曜日を休日とすることが就業規則で定められているケースなどでは、上記とは異なる計算になることがあります)。
なお、法定外休日における労働(たとえば、会社が土曜日と日曜日を休日とすることを定めているケースで、土曜日のみ勤務した場合など)は、法定休日労働として扱われるわけではないため、注意が必要です。
深夜まで働いたときの割増賃金(C)
深夜労働(22時から翌5時まで)に対しては、25%の割増賃金が必要です。これは、深夜労働が心身に与える負担を考慮したものであるとされています。
たとえば、時給1,000円の労働者が23時から2時まで働いた場合は、 1,000円 × 0.25 × 3時間 = 750円の深夜労働の割増賃金が発生します。
なお、深夜労働の割増は、後述のように、ほかの割増(時間外労働や休日労働)に追加して計算されます。
複数の類型が重なったときはどうなる?
割増賃金を支払う必要のある類型に複数該当する場合のうち、以下については、それぞれの割増率を合算して計算します。
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法定労働時間外かつ深夜に残業した場合(AかつC)
割増率:125%(時間外)+ 25%(深夜)= 150%
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法定休日かつ深夜に労働した場合(BかつC)
割増率:135%(休日)+ 25%(深夜)= 160%
たとえば、時給1,000円の労働者が、法定休日の23時から翌2時まで労働した場合は、1,000円 × 1.60 × 3時間 = 4,800円の割増賃金が発生します。
他方、法定休日に8時間を超えて労働したとしても、35%(休日)+25%(時間外)=60%増しとなるわけではありません。休日労働に対する割増率のみが適用され、35%増しとなります。
「固定残業代」って?その仕組みと注意点
固定残業代は、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度です。この制度は多くの会社で採用されていますが、法的に有効な残業代の支払いとして認められるために、会社が守らなければならない点もあります。
たとえば、固定残業代の金額または対応するみなし残業時間数を明確に示す必要があります。また、実際の残業時間が固定残業代のみなし残業時間数を超えた場合、追加の残業代を支払わなければなりません。
固定残業代とは?メリットとデメリット
固定残業代は、たとえば「基本給20万円+固定残業代5万円(30時間分)」といったかたちで定められます。
固定残業代が採用されることによる、労働者側のメリットとしては、一般に以下のような点があるとされています。
メリット:
- 残業時間が固定残業代のみなし残業時間数より少なくても、固定額が支払われる
- 毎月の収入が安定するため、生活設計が立てやすくなる
他方で、会社側の対応によっては、以下のようなデメリットもあります。
デメリット:
- 求人や採用時点では給与総額に固定残業代が含まれていることを明確に説明しないなど、会社の不適切な対応によってトラブルが生じることがある
- 実際の残業時間がみなし時間数を超えていても、会社が追加の支払いをしない可能性がある
- 会社が残業時間の正確な把握を怠り、長時間労働が助長される可能性がある
実際の残業時間がみなし残業時間数を超えたらどうなる?
実際の残業時間が固定残業代のみなし時間数を超えた場合、超過分については追加で残業代を支払われる必要があります。
上述したように、労働基準法では、実際の残業時間に応じた残業代の計算方法を定めています。この方法で算出される額以上である限り、固定残業代のような別の方法で決められた額を残業代として支払うことも認められる(※)のですが、超過分を追加で支払わない(労働基準法に基づき算出される残業代の額が、固定残業代の額より小さくなる)ことは違法です。
たとえば、30時間分の固定残業代が定められていたのに対し、実際には40時間残業した場合、追加で10時間分の残業代が別途支払われなければいけません。
毎月の残業時間をご自身でも大まかに記録しておき、みなし残業時間数を明らかに超える残業をした場合は、給与明細上、超過分の残業代が追加で支払われているかをチェックしてみるようにしましょう。これにより、固定残業代以外の未払い残業代が発生している可能性があるかどうかを、簡易的に調べることができます。
※国際自動車事件第一次上告審(最高裁平成29年2月28日判決)
管理職でも残業代は出るの?よくある誤解を解消
管理職には残業代が出ないという誤解が広く存在しますが、実際はそう単純ではありません。そうした誤解によって、違法な残業代未払いをはじめとする「名ばかり管理職」の問題が発生しています。
正確には、労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合のみ、残業代の支払義務が免除されるのです。ただし、深夜労働に対しては割増賃金を支払う義務があります。
以下で詳しく見ていきましょう。
本当の管理職(管理監督者)の定義
労働基準法上の「管理監督者」にあたるかどうかは、以下の3つの要素を総合考慮して判断されます。
- 経営者と一体的な立場で仕事をしている
- 労働時間の管理について裁量がある
- 地位にふさわしい待遇(賃金等)を受けている
一般的な企業におけるイメージとしては、部長クラス以上がこれに該当することがありますが、肩書きより重要なのは実態です。
どのような肩書きがあっても、上記の要素にあたる事情がない場合は管理監督者とは認められません。
「名ばかり管理職」問題と残業代
「名ばかり管理職」とは、管理職の肩書きを与えられているにもかかわらず、実態は一般労働者と変わらない労働条件で働いている労働者を指します。
この問題は、残業代の不払いや長時間労働を引き起こす原因となっています。
【名ばかり管理職の特徴】
- 実質的な人事権や決定権がない
- 労働時間の裁量が限られている
- 一般従業員とあまり変わらない待遇
このような場合、労働基準法上は一般従業員と同様に扱われ、残業代の支払い対象となります。
過去には、大手企業が名ばかり管理職問題で訴えられ、多額の未払い残業代の支払いを命じられた事例もあります。
変わった勤務形態でも残業代はあるの?
変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制などの特殊な勤務形態でも、原則として残業代は発生します。
ただし、計算方法が通常の勤務形態とは異なりますので、以下で詳しく見ていきましょう。
変形労働時間制
変形労働時間制では、原則として、一定期間(1ヵ月、1年など)の平均が法定労働時間(1週40時間)を超えない範囲であれば、繁忙期の所定労働時間を長く、閑散期を短く設定できます。
【残業代の発生条件】
- 各日の所定労働時間を超えた場合
- 変形期間全体の法定労働時間の総枠を超えた場合
会社から「変形労働時間制が適用される」と伝えられたとしても、会社が法律どおりに所定労働時間を設定しているとは限りません。この場合、実際の労働時間だけでなく、所定労働時間も自身で記録し、各日・各週の所定労働時間の上限が守られているか、定期的に確認してみるのもよいでしょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時刻を自由に決められる制度です。一定期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、その範囲内で労働時間を調整します。総労働時間は、原則として、清算期間を平均して、1週間あたり40時間以内とする必要があります。
フレックスタイム制で残業代が発生するのは、清算期間における実際の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合です。
たとえば、1ヵ月(所定労働日数20日)の清算期間で、法定労働時間の総枠が160時間、実労働時間が175時間の場合、法定労働時間の総枠を超える15時間分の残業代を支払う必要があります。
裁量労働制
裁量労働制は、業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用される制度です。実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間(みなし労働時間)働いたものとみなします。
裁量労働制の場合は、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合に残業代が発生します。
たとえば、みなし労働時間が1日9時間の場合、1日の法定労働時間は8時間であるため、その差である1時間分の残業代が支払われる必要があります。
残業代が支払われないときはどうする?
残業代の未払いは労働基準法違反であり、労働者の基本的な労働条件に関わる重大な問題です。それにもかかわらず、未払いの発生している会社があとを絶たないのが実情です。
以下では、残業代が支払われないケースや、それを防ぐための労働時間の記録方法、そして万が一未払いが発生した場合の請求方法について解説します。
どんなときに残業代が支払われないことがある?
残業代が支払われない典型的なケースとして、以下のようなものがあります。
- サービス残業の強制:
- 会社が「実際には残業したとしても、タイムカードは定時で打刻しろ」と言ったり、残業の申請を認めなかったりして、実際の残業時間が記録されない。
- 管理職に対する誤った認識:
- 実際は一般の労働者と変わらない仕事をしているのに、「管理職だから」と言って残業代が支払われない。
- 固定残業代に対する誤った認識:
- 30時間分の固定残業代が支払われているという理由で、それ以上働いても追加の残業代が支払われない。
- 勤務時間の正確な把握ができていない:
- きちんとした出退勤管理システムがなく、誰がいつまで働いているのかよくわからない状態になっている。
- 経営者の前時代的な遵法意識:
- 違法な状態にあることを会社も認識しているにもかかわらず、「この業界では残業代なんて出ないのが当たり前」「法律なんか守っていたら会社が潰れてしまう」など、独善的な理由で改善を怠っている。
これらの状況は、意図的であるか否かにかかわらず、労働基準法に違反した残業代の未払いとなる可能性があります。弁護士に相談して、未払い残業代の請求を検討すべきでしょう。
正確な勤務時間を記録するには?
自分の労働時間を正確に記録することは、適切な残業代を受け取るために重要です。
以下の方法を活用して、自身の労働時間を記録しましょう。
- タイムカードなどによる出退勤記録:
- 一般的かつ証拠としてもっとも強力な方法です。打刻した記録を定期的に確認し、保管しておくことをおすすめします。
- PCのログ記録:
- 業務用PCの起動・終了時間やアプリケーションの使用履歴をスクリーンショットなどで記録しておきます。
- 業務日報の作成:
- 日々の業務内容と労働時間を詳細に記録します。
- 勤怠管理アプリの利用:
- 会社が提供するアプリがある場合は、それを使用して労働時間を記録します。リアルタイムな機械的記録ではなく、事後的に手動で修正したりしてしまうと、証拠としての信用性が下がることもあるので注意しましょう。
- メールやチャットのタイムスタンプ:
- 業務に関するメールやチャットの送受信時刻も、労働時間の証拠になります。
タイムカードや日報について、上司による承認がある場合は、その記録も大切に保管しましょう。会社が管理している勤怠記録と自身の記録に差異がある場合は、速やかに上司や人事部門に確認することをおすすめします。
未払いの残業代を請求するには?時効はいつまで?
未払いの残業代がある場合、以下の手順で請求することが考えられます。
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残業代の計算:
先ほどご説明したような証拠をもとに、未払いの残業代を計算します。
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会社との交渉:
会社に対して、①で計算した未払い残業代を支払うよう交渉します。
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法的手段の検討:
交渉では支払いが実現しない場合は、労働審判や訴訟などの裁判手続に進みます。
ただし、いずれも一般の方だけで対応するのは難しいため、弁護士に依頼して行うのが一般的です。
また、残業代の請求権には時効があり、各月の給与支給日から3年と定められています。
すなわち、原則としてこの期間内に請求しないと権利が消滅してしまうため、できるだけ早く行動に移すことが重要です。
未払い残業代の請求ならアディーレへ
労働基準法に基づく残業代の支払いは、「労働者が人たるに値する生活を営むため」(労働基準法第1条1項)に不可欠な労働条件の1つです。この記事で紹介した知識を活用し、正しく残業代が支払われているか、見直してみましょう。
もっとも、自分の状況に正確に当てはまるかどうか判断が難しいこともあります。疑問や不安がある場合は、労働法に精通した弁護士に相談することで、正確な見通しと適切な対応策を得ることができます。
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監修者情報
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資格
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弁護士
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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東京大学法学部、東京大学法科大学院
裁判に関するニュースに寄せられた、SNS上のコメントなどを見るにつけ、法律家が法的な思考をもとに下した判断と、多くの社会一般の方々が抱く考えとのギャップを痛感させられます。残念でならないのは、このようなギャップを「一般人の無知」と一笑に付すだけで、根本的な啓発もなく放置したり、それを利用していたずらに危機感を煽ったりするだけの法律家が未だにいることです。法の専門家として、専門知を独占するのではなく、広く一般の方々が気軽に相談し、納得して、法的解決手段を手に取ることができるよう、全力でサポートいたします。