そもそも残業とは?基本的な概念を理解しよう
「残業」の定義を大まかにいえば、法律や会社で定められた通常の勤務時間を超えて働くことです。正しい額の残業代を得るためには、残業の概念を正確に理解することが不可欠です。
通常の勤務時間を超えたら残業:所定労働時間の説明
所定労働時間とは、会社が就業規則などで定めた1日の標準的な勤務時間のことです。
たとえば、9時から18時まで(休憩1時間を含む)と定められている場合、所定労働時間は8時間となります。この時間を超えて働いた場合、原則として残業となります。
重要なポイントは以下のとおりです。
- 所定労働時間は会社ごとに異なる場合がある
- 法定労働時間内でも、所定労働時間を超える場合は残業(法内超過労働)になる
法律で決められた上限:法定労働時間について
労働基準法では、1日8時間、1週間40時間を法定労働時間と定めています。これを超える労働は、割増賃金の支払いが必要な時間外労働(残業の一種)となります。
法定労働時間に関する注意点は以下のとおりです。
- 特例措置対象事業場(常時10人未満の労働者を使用する、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業場)では、1週間44時間まで認められている
- 変形労働時間制を採用している場合、法定労働時間の計算方法が異なる
残業代はどうやって計算するの?基本の「き」
残業代の計算には、基本的な計算式があります。この式を理解することで、自分の残業代を概算することができます。
ここで、割増率の基本は1.25倍(25%増し)です。
以下に、基本的な残業代計算のフローチャートを示します。
[基礎賃金の計算] → [時給の計算] → [残業時間の計算] → [割増率の適用] → [残業代の計算]
まずは時給を出そう:月給から時給を計算する方法
時給制以外の場合、残業代計算のために時給を算出する必要があります。
たとえば、月給制の計算方法は以下のとおりです。
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月給 ÷ 1ヵ月の平均所定労働時間 = 時給
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1ヵ月の平均所定労働時間 = (年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間) ÷ 12ヵ月
例:月給30万円、年間所定労働日数240日、1日8時間労働の場合 時給 = 30万円 ÷ ((240日 × 8時間) ÷ 12) ≒ 1,875円
時給計算に関する注意点は以下のとおりです。
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手当によっては、残業代計算の基礎となる賃金(基礎賃金)に含める必要がある
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最低賃金を下回る場合は、最低賃金が時給額になる
残業時間を数えよう:残業時間の正しい数え方
残業時間を正確に把握するためには、以下の点に注意が必要です。
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1日単位で計算する
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休憩時間は含まない
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1ヵ月単位でまとめて計算する場合もある
残業時間の端数処理方法には以下のようなものがあります。
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1日単位で15分、30分、1時間などの単位で切捨て
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1ヵ月の合計時間で1時間単位で切捨て
例:17時45分まで働いた場合、17時30分まで働いたものとして30分未満を切捨て
しかし、このような端数処理方法は原則として違法であり、1分単位で残業代を請求することができます。
残業代が増える?割増率について知ろう
残業代の計算には、さまざまな割増率が適用されます。これらの割増率を理解することで、自分の残業代が適切に計算されているか確認できます。主な割増率は以下の表のとおりです。
普通の残業:25%増しになる理由
法定労働時間を超える時間外労働には、最低でも125%の割増率が適用されます。この割増率が適用される理由は以下のとおりです。
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労働者の健康を守るため
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長時間労働を抑制するため
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労働の対価として適切な対価を保証するため
計算例:時給1,500円で2時間残業した場合
残業代 = 1,500円 × 2時間 × 1.25 = 3,750円
夜遅くまで働いたら:深夜労働の割増率
深夜労働(22時から翌5時まで)には、25%の割増率が適用されます。時間外労働と重なる場合は、125%+25%となるため、さらに割増率が上乗せされます。
深夜労働の残業代 = 時給 × 0.25 × 深夜残業時間
深夜かつ時間外労働の残業代 = 時給 × 1.5 × 深夜残業時間
深夜まで残業:割増率が重なる場合の計算例
時間帯ごとの割増率を視覚的に示す図を以下に示します。
計算例:時給1,500円で18時から30時(翌6時)まで12時間労働した場合
18時から22時までの4時間:法定労働時間内、かつ深夜ではないので、残業代なし(基本給に含まれている)
22時から26時までの4時間:1,500円 ×4時間 × 0.25 = 1,500円
26時から29時までの3時間:1,500円 × 3時間 × 1.5 = 6,750円
29時から30時までの1時間:1,500円 × 1時間 × 1.25 = 1,875円
合計:1,500円+6,750円+1,875円= 10,125円
休日出勤したら:休日労働の割増率
法定休日労働には、135%の割増率が適用されます。
休日労働の残業代 = 時給 × 1.35 × 休日労働時間
計算例:時給1,500円で休日に6時間働いた場合 1,500円 × 6時間 × 1.35 = 12,150円
休日労働に関する注意点は以下のとおりです。
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会社独自の休日(所定休日)だが法定休日ではない場合は、適用されない
残業代の計算例:具体的に見てみよう
実際の残業代計算を具体例で見ていきましょう。ご自身の状況に当てはめやすくなるのではないでしょうか。
よくあるケースの計算例
例:月給30万円(時給換算1,875円)で、3時間残業した場合
残業代 = 1,875円 × 1.25 × 3時間 = 7,031円(小数点以下切り捨て)
割増率が重なる場合の計算例
例:時給1,875円で、21時から24時まで残業した場合
21時~22時(通常残業):1,875円 × 1.25 × 1時間 = 2,344円
22時~24時(深夜残業):1,875円 × 1.5 × 2時間 = 5,625円
合計:2,344円 + 5,625円 = 7,969円
このように、割増率が重なる場合は、それぞれの時間帯で別々に計算する必要があります。
給料明細の見方:残業代はどこに書いてある?
給料明細には、さまざまな項目が記載されています。
給与明細書
基本給 |
20万円 |
役職手当 |
3万円 |
通勤手当 |
1万円 |
時間外手当 |
15,000円 |
深夜手当 |
5千円 |
休日手当 |
1万円 |
総支給額 |
27万円 |
この例では、時間外手当、深夜手当、休日手当が残業代に該当する項目です。これらの金額が適切に計算されているか確認することが重要です。また、固定残業代制を採用している場合は、別途「固定残業代」などの項目が記載されることがあります。
給与明細を正しく理解することで、自分の労働に対する適切な対価を受け取っているか確認できます。不明な点がある場合は、人事部門に確認するとよいでしょう。
基本給と残業代:明細書の読み方
給料明細を正しく読み解くことは、法的に正しい額の給与を受け取っているか確認するために重要です。
固定残業代が含まれている場合の確認ポイントは以下のとおりです。
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基本給と固定残業代が分けて記載されているか確認
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固定残業代の対象となる残業時間数が明記されているか確認
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実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合、追加の残業代が記載されているか確認
手当の種類:残業代に含まれるものと含まれないもの
残業代の計算には、基本給以外の手当も関係します。ただし、すべての手当が計算基礎に含まれるわけではありません。一般的な原則は以下のとおりですが、実際の扱いは会社や労働契約によって異なる場合があります。
これらは通常、労働の対価とみなされるため、残業代計算に含まれます。
一方、以下のものは通常、残業代の計算基礎に含まれません。
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通勤手当
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家族手当
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臨時に支払われる賃金(結婚祝金など)
これらは労働の対価ではなく、福利厚生として支給されるためです。
ただし、注意点もあります。手当の扱いに関する注意点は以下のとおりです。
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会社によって手当の扱いが異なる場合がある
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就業規則や労働契約で確認することが重要
自分の給与体系における各手当の扱いを正確に理解し、必要に応じて確認することが、正しい残業代受け取りの鍵となります。
変わった勤務形態での残業代:フレックスタイムって?
近年、多様な働き方が広がっています。たとえばフレックスタイム制における残業代計算は、通常の勤務形態とは異なる点があります。
フレックスタイム制とは:自由な勤務時間の仕組み
フレックスタイム制は、労働者が一定の範囲で始業・終業時刻を自由に決められる働き方です。個人の生活スタイルや業務の繁閑に合わせて勤務時間を調整できます。
フレックスタイム制の時間帯を図示すると、以下のようになります。
フレックスタイム制の主な特徴は以下のとおりです。
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コアタイム:必ず勤務しなければならない時間帯
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フレキシブルタイム:自由に出退勤できる時間帯
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清算期間:労働時間の調整を行う期間(3ヵ月以内)
コアタイムは必ず勤務しなければならない時間帯、フレキシブルタイムは自由な出退勤が可能な時間帯です。コアタイムを定めない場合もあります。清算期間中を平均したとき、1週間の労働時間が法定労働時間を超えなければ、日々の勤務時間にばらつきがあっても問題ありません。
フレックスタイムでの残業代:計算方法の違い
フレックスタイム制での残業代計算は、通常の勤務形態とは異なります。以下がその計算方法です。
- 清算期間における法定労働時間の総枠を計算
- 実際の労働時間が総枠を超えた場合、その超過時間に対して残業代を支払う
例:1ヵ月の法定労働時間が160時間で、実労働時間が170時間の場合、10時間分の残業代が発生します。
この方法では、日々の労働時間の長短ではなく、清算期間全体での労働時間が重要になります。そのため、ある日に長時間働いても、別の日に早く帰ることで調整できれば、必ずしも残業代は発生しません。
固定残業代って聞いたことある?仕組みを理解しよう
固定残業代制度は、一部の会社で採用されている給与システムです。この制度を正しく理解することで、自分の権利を守り、適切な対価を受け取ることができます。
固定残業代とは:あらかじめ決められた残業代
固定残業代の主な特徴は以下のとおりです。
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一定時間の残業代を基本給とは別にあらかじめ支給
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労働契約や就業規則で定めることが必要
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固定残業代の額または対象となる残業時間数を明示する必要がある
例:月給30万円(基本給27万円+固定残業代3万円)
注意点:実際の残業時間が多い場合どうなる?
固定残業代を超える残業をした場合、以下の手順で追加の残業代を請求できます。
- 実際の残業時間分の残業代を計算
- 固定残業時間分の残業代を計算
- ①よりも②が不足していれば、不足分が追加支給される
例:60時間残業した場合、固定残業代(40時間分)を超える20時間分の残業代を追加で請求できます。
固定残業代に関する注意点は以下のとおりです。
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固定残業代の金額が実際の残業時間に対して適正か確認が必要
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固定残業代の対象となる時間数を超えた場合は追加支給を受ける権利がある
残業代がもらえていない?自分の権利を守ろう
残業代は労働者の権利として法律で保護されています。しかし、適切に支払われていないケースも少なくありません。自分の権利を守るためには、以下の点を理解し、必要に応じて行動を起こすことが重要です。
残業代請求できる期間:3年以内
残業代の請求権には時効があります。この時効期間を知っておくことで、自分の権利を適切に行使することができます。具体的な時効期間は以下のとおりです。
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支給日が2020年3月以前の残業代:2年
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支給日が2020年4月以降の残業代:3年
原則として、この期間内に請求しないと、権利が消滅してしまうので注意が必要です。
自分で記録を取ろう:労働時間メモの重要性
残業代請求の際、自分で取った労働時間の記録が重要な証拠となります。会社の記録と食い違いがある場合に備え、以下の方法で日々の記録を残しましょう。
残業代請求の際に重要となる労働時間の証拠は以下のとおりです。
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タイムカード
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PCのログ
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メールやチャットのやり取りなど
これらの記録をもとに、残業代の請求を行います。具体的な手順は次のとおりです。
- 未払い金額を計算する
- 会社に対して請求する
- 話合いで解決しない場合、労働審判や訴訟を検討する
まとめ
残業代の正しい計算には、少なくとも、法定労働時間、時給の算出、割増率の適用等に関する理解が不可欠です。また、フレックスタイムや固定残業代など、特殊な勤務形態での計算方法も押さえておくことが大切です。
自分の労働時間を記録し、給与明細をしっかりチェックすることが、法的に正しい残業代を受け取っているかを調べるための第一歩となります。
今日から、自分の残業時間を記録する習慣をつけてみませんか?
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