残業代請求コラム

労働基準監督署に通報したい!知っておくべき知識や注意点を弁護士が解説

公開日:

労働問題で悩んでおり、労働基準監督署に通報することを考えている方は、「通報すれば、労働基準監督署は動いてくれるのだろうか」、「労働基準監督署はどんな対応をしてくれるんだろう」と疑問に思っていらっしゃるかもしれません。

本コラムでは、労働基準監督署がどのような機関であり、どんな労働問題について、どのような対応をするのかについて解説しています。
労働基準監督署への通報を検討するにあたり、参考にしていただける内容となっておりますので、最後までお読みいただければ幸いです。

今回の記事でわかること
  • 労働基準監督署に通報するべき労働問題
  • 労働基準監督署が通報を受けたときの対応内容
  • 労働基準監督署が法律違反と認めても、労働者自身の対応が必要な場合
  • 労働基準監督署による対応が難しい場合、弁護士へ相談するメリット
目次
  1. 労働基準監督署に通報する前に知っておきたい基礎知識
    1. 労働基準監督署と労働基準監察官
    2. 労働基準監督署に通報するべき労働問題
    3. 労働者が労働基準監督署に通報するメリット
      1. 会社に対して労働問題の改善を促してもらえる
      2. 調査ができない場合は、対応方法を教えてもらえることがある
  2. 労働基準監督署に通報するには?
    1. 通報の方法には3種類ある
      1. 電話で通報する方法
      2. メール(労働基準関係情報メール窓口)で通報する方法
      3. 監督署に直接訪問して通報する方法
    2. 通報したあとの流れ
      1. 会社が是正勧告書や指導票に従わない場合
      2. 未払い残業代の支払いを命じる権限はない
  3. 労働基準監督署に通報する際の注意点
    1. 通報内容が労働基準法違反の可能性があるトラブルに限られる
    2. 匿名の場合、具体的な対応をしてもらえないことがある
    3. 法令違反の証拠が十分でない場合には対応が遅くなることがある
    4. 未払い残業代などについての是正勧告には強制力がない
  4. 労働問題を弁護士に相談・依頼すべき理由
    1. 勤務先との交渉を任せることができる
    2. 未払い残業代などの請求ができる
    3. 労働審判や裁判に発展した場合も安心
  5. まとめ

労働基準監督署に通報する前に知っておきたい基礎知識

労働基準監督署に通報したとしても、労働基準監督署がそもそも調査できる労働問題ではないとされることがあります。またどのようなメリットがあるのかを知らないと、労働基準監督署に通報をするべきかよく検討できません。

そこで、労働基準監督署がどのような機関であるのか簡単に触れたうえで、労働基準監督署に通報するべき労働問題についてご説明するとともに、通報によりどのようなメリットがあるのかご説明します。

労働基準監督署と労働基準監察官

労働基準監督署とは、使用者に労働基準法およびその関係法規を遵守させるための監督や労災保険給付を行う行政機関です。
そして、労働基準監督署には、労働基準監督官が置かれており、下記のような権限を有しています。

①事業場などの臨検、帳簿および書類の提出の要求、使用者や労働者に対する尋問をする権限(労働基準法第101条1項、労働安全衛生法第91条1項等)

②労働基準法違反、労働安全衛生法違反の罪について、刑事訴訟法の司法警察官の職務(逮捕、捜索・差押え等)を行う権限(労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条等)

また、寄宿舎が安全衛生に関して定められた基準に反し、かつ労働者に急迫した危険がある場合、労働基準監督署長による使用停止等を命じる権限(労働基準法第96条の3)の行使を待たずに、即時に自らその権限を行使することもできます(労働基準法第103条)。

労働基準監督署に通報するべき労働問題

労働基準監督署は、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、作業環境測定法、じん肺法、家内労働法および賃金の支払いの確保等に関する法律などの各法規(以下「労働基準法等」といいます)の違反が問題とされる事案について、事業場などの臨検、帳簿・書類の提出の要求、使用者や労働者に対する尋問などの労働基準監督官による調査を行います。

具体的には、以下のような事案について、労働基準監監督官による調査が可能です。

  • 著しい長時間の残業をさせられている(労働基準法第36条違反の問題)
  • 残業代を含めた賃金が未払いである(労働基準法第24条および同法第37条違反の問題)
  • 解雇予告手当の支払いがなく即時解雇された(労働基準法第20条1項違反の問題)
  • 有給休暇を取らせてくれない(労働基準法第39条違反の問題)

そのため、労働者は、こうした労働問題を労働基準監督署に通報するべきといえます。

これに対し、労働基準法等の違反が問題とされない事案については、労働基準監督官による調査はできません。
パワハラやセクハラ、不当な退職勧奨、配転命令の有効性、能力不足などを理由とする解雇の有効性などの労働問題については、労働基準法等に規定がなく、その違反が問題とされるわけではありません。そのため、労働基準監督署に通報しても、労働基準監督署は動いてくれないのです。

労働者が労働基準監督署に通報するメリット

では次に、労働基準監督署に通報するメリットについて確認していきましょう。

会社に対して労働問題の改善を促してもらえる

上記のとおり、労働基準監督署は、著しい長時間の残業や、残業代を含めた賃金の未払いといった労働問題について、労働者からの通報を受け、労働基準法等の違反が疑われるときには、会社の事務所に立ち入り、就業規則・賃金規程、賃金台帳、勤怠管理資料などの提出を求めることがあります。そして、代表者や労働者に対して質問し、陳述を求めるなどの労働基準監督による調査を行うことがあります。

労働基準監督官は、そうした調査の結果、会社に違反が認められる場合、その違反状態を改めるよう勧告する是正勧告書を交付します。
会社がこれに従い、たとえば、労働基準法に違反する長時間の残業を命ぜられることがなくなる、あるいは実際の残業時間に見合った残業代が支払われるようになることで、労働者の利益が確保されることがあります。これが通報したことによるメリットだと言えるでしょう。

調査ができない場合は、対応方法を教えてもらえることがある

労働基準監督署は、労働者から通報を受けたからといって、必ず労働基準監督官による調査を開始するわけではありません。
たとえば、通報の内容からして労働基準法等に違反しているとはいえないことがあります。また違反していることが疑われるとしても、その根拠となる資料がないと、労働基準監督署の人員が限られていることもあり、調査を開始するべき事案だと判断できない場合があるからです。

もっとも、労働基準監督官による調査ができないとしても、対応方法を教えてもらえることもあります。
労働基準法の内容の説明や、会社にどのようなことを求めるべきなのかを教えてもらえることは、労働者にとってメリットといえるので、覚えておいていただきたいです。

労働基準監督署に通報するには?

労働者が労働基準監督署に通報するにあたり、どのような方法があるのかご説明するとともに、労働基準監督署が通報を受けたあとの流れについてもご説明いたします。

通報の方法には3種類ある

労働基準監督署に通報する方法としては、下記の3つが挙げられます。

  1. 電話で通報する方法
  2. メール(労働基準関係情報メール窓口)で通報する方法
  3. 監督署に直接訪問して通報する方法

①電話や②メール(労働基準関係情報メール窓口)による通報は、労働基準監督署まで自ら行くことなく簡易にできるというメリットがあります。それぞれ詳細について確認していきましょう。

①電話で通報する方法

電話による通報の場合、労働基準法等に違反する事実をきちんと伝えられるとは限りませんし、会社の労働基準法等の違反により、いかに大変な状況に置かれているのか、理解してもらえないおそれもあります。また、口頭での説明だけによるため、労働基準監督署としても、労働基準監督官による調査を開始するべき事案であると即断できず、労働者がアドバイスを受けるに止まることが多いといえます。

なお、「労働条件相談ほっとライン」に架電して労働問題を相談することもできます。こちらは厚生労働省から委託を受けた事業者が運営しており、専門知識を持つ相談員が対応しますが、会社に是正・改善などを促すことはしません。あくまで相談できるだけですので、労働基準監督署への通報を検討するにあたり利用されるのがいいでしょう。厚生労働省のホームページに掲載されておりますので、ぜひご覧ください。

②メール(労働基準関係情報メール窓口)で通報する方法

メール(労働基準関係情報メール窓口)による通報は、個々の労働基準監督署にメールを送信するのではなく、厚生労働省のサイトにメール送信するものです。そのため、仮に管轄の労働基準監督署が動くとしてもそれまでに相当な時間がかかります。また、あくまで情報を提供するに止まり、労働問題についてアドバイスを受けることもできません。
なお、メール(労働基準関係情報メール窓口)の利用方法については、厚生労働省のホームページに掲載されておりますので、そちらもあわせご覧ください。

③監督署に直接訪問して通報する方法

ご説明してきたように、電話やメールによる通報は、それぞれ一長一短があります。
したがって、「労働基準監督官による調査を開始するべき」と判断されるようにするためには、監督署に労働基準法等に違反する根拠資料を持参して直接訪問することが望ましいと言えます。対面にて、労働基準法違反の事実を説明することで、実情をより理解してもらいやすくなるでしょう。
労働基準監督署の所在地および電話番号は、厚生労働省のホームページに掲載されておりますので、そちらをご覧ください。

通報したあとの流れ

労働基準監督署は、労働者からの通報を受け、労働基準法等に違反する疑いがあれば、労働基準監督官による調査を開始します。調査では、会社の事務所に立ち入り、就業規則・賃金規程、賃金台帳、勤怠管理資料などの提出を求めるほか、代表者や労働者に対して質問をして、陳述を求めるなどします。

労働基準監督官は、そうした調査の結果、会社に違反が認められる場合、その違反状態を改めるよう勧告する是正勧告書を交付します。
これに対し、法令違反までは認められないものの、改善が望ましいとされる場合、改善事項を記載した指導票を交付します。
なお、改善が望ましいとされる事項がなければ、通報を受けたことで開始された労働基準監督署による監督活動は終了します。

会社が是正勧告書や指導票に従わない場合

是正勧告などは,強制力を有する行政処分ではなく、あくまで任意の対応を促す行政指導としてなされます。だからといって、是正勧告書に従わないままにすると、刑事罰を科すための刑事手続が開始される可能性があり、また指導票に従わないままにすると、再度の調査を受ける可能性があります。
そのため、会社は、是正勧告書や指導票に従い、労働基準法等の違反の状態を解消、あるいは望ましい運用に改善することが多いです。その場合、会社は実際にどのような是正・改善をしたのか、その具体的内容を是正(改善)報告書に記載して労働基準監督署に提出します。

会社が是正勧告書に従わず、労働基準法等の違反の状態が重大かつ悪質であるといえるときには、刑事手続が開始されて、代表者などが逮捕され、会社が捜索・差押えを受けることもあります。
ただ、労働者からの通報を受けて、いきなり刑事手続が開始されることは稀であり、まずは、会社に対し任意の対応を求めます。

未払い残業代の支払いを命じる権限はない

なお、労働基準監督官は、会社に対し、労働基準法第37条違反の状態を是正する具体的内容として、未払い残業代の支払いを促すことはできますが、支払いを命じるまでの権限はありません。
たとえば、会社が労働基準監督官の是正勧告を受け、過去数ヵ月分の未払い残業代を労働者に支払ったものの、残業代の未払いは過去数ヵ月に止まらない、会社の計算した時間より残業時間はもっと長いということで、会社から更なる支払いを受けるためには、労働者自身が民事上の法的措置を採るなどの対応をする必要があります。

労働基準監督署に通報する際の注意点

労働基準監督署に通報する際に注意するべきことは、これまで説明してきたことと重複するかもしれませんが、以下のとおりとなります。

通報内容が労働基準法違反の可能性があるトラブルに限られる

まず、通報内容は、労働基準法等に違反する労働問題に限定するべきです。
具体的には、著しい長時間の残業、残業代を含めた賃金の未払いといったことが問題となる事案ということになります。
パワハラやセクハラについて通報しても、労働基準法等に規定がなく、その違反が問題とならないため、労働基準監督署は動いてくれません。

匿名の場合、具体的な対応をしてもらえないことがある

労働者の方が名乗らずに匿名で通報しても、労働基準監督署からすると、本当に会社の労働基準法等に違反する態様により困った状況に置かれているのか判断がつかず、もっぱら会社に嫌がらせをする目的で通報してきた可能性も否定できません。
ですので、しっかりと名乗って通報することで、労働基準監督署に実情を理解してもらい、労働基準監督官による調査を開始するべき事案であると判断してもらえるようにしましょう。

なお、労働基準監督署に通報したことが会社に発覚することを懸念し、匿名での通報をお考えの方もおられるかもしれません。ですが、労働基準監督署には守秘義務がありますので、労働基準監督署が通報した労働者の氏名を一方的に開示することはありません。

法令違反の証拠が十分でない場合には対応が遅くなることがある

通報したとしても、労働基準法等に違反することの根拠資料(証拠)がないと、労働基準監督署は動いてくれず、仮に動くとしても対応が遅くなることが多いです。
というのも、労働基準監督署の人員が限られており、ほかの証拠がある事案を優先して対応することになるからです。

たとえば、残業代が未払いであるとの通報するには、労働基準監督署を直接訪問し、証拠となるタイムカードなどの勤怠管理資料の写しや、給与明細を持参して、労働基準法第37条違反の事実を説明されたほうがよいでしょう。

未払い残業代などについての是正勧告には強制力がない

労働基準監督署が通報を受け、労働基準監督官による調査を開始し、労働基準法等に違反することが認められるということで、会社に是正勧告書が交付されたとしても、これには強制力がありません。あくまで任意の対応を求めるものなので、会社が必ず労働基準法等の違反の状態を是正するとは限らないのです。

そして、労働基準監督官は、会社に労働基準法第37条違反の事実が認められるということで、是正勧告書を交付し、会社がこれに従い今後は残業代を支払うようしたとしても、過去の未払い残業代の支払いについては別です。会社に対して、その支払いを命じる権限まではありません。
会社から過去の未払いの残業代の支払いを受けるためには、労働者自身が会社に対して未払い残業代の支払いを請求することが必要です。

労働問題を弁護士に相談・依頼すべき理由

ご説明してきたように、労働基準監督署は、パワハラやセクハラ、不当な退職勧奨、配転命令の有効性、能力不足などを理由とする解雇の有効性などの労働問題について、動いてはくれません。

だからこそ、そういった問題については弁護士に相談・依頼されたほうがいいでしょう。またそのほかの理由もございますので、ご紹介いたします。

勤務先との交渉を任せることができる

たとえば、労働者個人で、解雇が無効であることを理由として地位確認を求めたとしても、会社が真摯に対応するとは限りません。
会社が真摯に対応したとしても、労働者個人では法的知識が不足し、交渉力も会社に劣ることが多いため、労働者に不利な内容の裁判外の和解を成立させてしまうことも起こり得ます。
さらに、会社と対等に交渉することができるとしても、それに一定の時間を取られてしまうという負担も生じます。

しかし弁護士であれば、法的知識も交渉力もありますので、会社との交渉などを安心して任せることができるのです。

未払い残業代などの請求ができる

労働基準監督署は、過去の未払い残業代について、会社に支払いを命じることはできません。会社が労働者に過去の未払い残業代を支払わない場合には、労働者自身が、会社に対し、未払い残業代の支払いを求める必要があります。
これについても法的知識や交渉力を補い、時間的負担からも解放されることから、弁護士に相談・依頼し、会社との交渉を任せることは、依頼者の方にとって大きな意味を持つのではないでしょうか。

また、未払い残業代を請求するにあたり、就業規則や賃金規程、賃金台帳・給与明細、タイムカードなどの勤怠管理資料が証拠として必要であり、これらの証拠を収集するだけでも大変です。弁護士に依頼すれば、そうした証拠を所持していない場合でも、会社に開示を求めるなどの方法により対応してくれますから、その点も大きなメリットといえるでしょう。

労働審判や裁判に発展した場合も安心

会社との協議交渉にて解決できず、労働審判や訴訟に移行した場合でも、弁護士に依頼していれば、併せて対応してくれますので、安心することができます。
しかも、書面の作成を含め、裁判手続にはより専門的知識が求められるという点から、弁護士に任せる必要性は、協議交渉段階に比べ非常に高いといえるのです。

まとめ

本コラムでは、労働基準監督署に通報するべき労働問題、通報することのメリット、通報の方法、通報したあとの流れについてご紹介しました。

労働基準監督署に通報したからといって、必ずしも労働者の望むような結果になるとは限りません。たとえば、お伝えしてきたように、会社が未払いの残業代を支払わない場合には、労働者自身が会社にその支払いを求める必要があります。
そうした会社に対する請求も、弁護士に相談・依頼することで、会社との交渉や裁判対応まで弁護士であれば任せることができます。
労働基準監督署が対応する労働問題であっても、その対応には限界がありますので、弁護士に相談・依頼することもぜひご検討ください。

  • 現在アディーレでは、残業代請求を含む労働トラブルと、退職代行のみご相談・ご依頼をお引き受けしております。 残業代請求と退職代行に関するご相談は何度でも無料ですので、お気軽にお問合せください。

監修者情報

髙野 文幸
弁護士

髙野 文幸

たかの ふみゆき
資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
中央大学法学部

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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