管理職は残業代が出ないから給与が下がった…これって違法では?
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「管理職になったら、残業代は出なくなるよ」
管理職に昇進し,給与が増えると期待していた矢先に、会社からそう言われ、わずかな役職手当と引き換えに残業代が支給されなくなってしまい、昇進前よりもかえって給与が減った…。そんな悩みを抱えていらっしゃる方はいませんか。
結論から申し上げますと、「管理職には残業代が出ない」というのは誤解です。このような誤解が流布しているのは、役付者という意味での「管理職」と、労働基準法上、残業代が支給されない「管理監督者」とが、混同されてしまっているからだと思われます。
本コラムでは、管理職と管理監督者の違いや、管理監督者に該当するポイントなどについて詳しく解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 今回の記事でわかること
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会社の職制上の管理職と労働基準法上の管理監督者との違い
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残業代がもらえない管理監督者にあたるかどうかのセルフチェックポイント
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未払い残業代が発生している場合の請求方法
- 目次
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管理職になったら残業代が出なくなるって本当?
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役職手当が残業代の代わりに…?
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“管理職”と“管理監督者”は違う?
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管理監督者に該当する3つのポイント
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職務内容、責任、権限
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勤務時間に関する裁量
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賃金などの処遇
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管理職になって残業代が支給されなくなるのは違法?
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管理監督者でないなら、違法になる
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管理監督者であるなら、違法にならない可能性が高い
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未払い残業代が発生していれば、請求できる可能性がある
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自分で会社と交渉する
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労働基準監督署に相談する
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弁護士に相談する
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まとめ
管理職になったら残業代が出なくなるって本当?
今月から、管理職である課長に昇進し、給与が上がると喜んでいたAさん。責任が重くなったこともあり、Aさんは、これまで以上に多くの残業をしました。
昇進前も残業の多かったAさんは、毎月約8万円の残業代の支給を受けていました。
しかし、昇進後初めてもらった給与明細書を見て愕然としました。なんと、残業代の支給が0円。代わりに、新たな手当として役職手当の4万円だけが支給されていました。
「昇進前よりも、給与が減っている…」
役職手当が残業代の代わりに…?
Aさんは、冗談じゃないと思いました。
「わずかな役職手当と引き換えに、残業代がもらえなくなるくらいなら、平社員のまま残業代をもらっていたほうがマシだ…」
そこで会社に理由を問いただすと、次のように言われました。
「管理職になったので、今月から残業代は一切出ません。その代わりに、役職手当を支給しています」
そのような説明を受けたところで、当然Aさんは納得がいきません。
果たして、会社の言う「管理職になったから残業代は出ない」という説明は、法的に見て正しいのでしょうか?
“管理職”と“管理監督者”は違う?
労働基準法第41条2号は、「管理監督者」について定めています。そこでは、管理監督者に該当すると、同法で定める労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されるとしています。これは簡単に言うと、深夜割増以外の、通常の残業代や休日割増賃金が支給されなくなるということです。
このような規定があるため、会社が誤解して、あるいは意図的に「管理職」=「管理監督者」と考え、管理職には残業代を出さないということが、往々にして起こってしまうのです。
しかし、会社が社内政策的な観点から任命する役付者としての「管理職」と、労働基準法上の「管理監督者」とは、本来、別概念です。
会社から課長や部長、店長などといった管理職としての役職名を与えられたからといって、それによって、労働基準法上の管理監督者になるというわけではありません。
管理監督者に該当する3つのポイント
このように、労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかは、労働者にとって、残業代が出るか出ないかという、非常に大きな利害問題につながります。しかし、どのような場合に管理監督者になるのかは、法律上、明確に書かれているわけではありません。
そこで、法律実務の現場では、過去の裁判例や行政通達から、管理監督者に該当するか否かの判断要素を抽出する作業が行われてきました。管理監督者に該当するか否かは、おおむね次の3つの要素から判断されます。
職務内容、責任、権限
1つ目は、職務内容・責任・権限です。3つの判断要素のなかでも、もっとも重視される要素であり、次のような場合には、管理監督者に該当しないと判断されます。
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人事の採用権限がない
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人事の解雇権限がない
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職務内容に、部下の人事考課に関する事項が含まれていない
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経営上の重要な方針決定に参画していない
勤務時間に関する裁量
2つ目は、勤務時間の裁量に関する要素です。次のような場合には、管理監督者に該当しないと判断されます。
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遅刻や早退などをすると、減給、制裁、人事考課でのマイナス評価を受ける
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店舗の営業時間に縛られるなど、長時間労働を余儀なくされる
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外出などに上司の許可がいる
賃金などの処遇
最後は、賃金などの処遇についての要素です。次のような場合には、管理監督者に該当しないと判断されます。
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基本給、役職手当などを合計しても、実際の残業時間数を考慮すると十分ではない
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賃金を時給換算した場合に、最低賃金額に満たない
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同じ会社のほかの一般労働者の賃金総額と同程度以下である
管理職になって残業代が支給されなくなるのは違法?
もし、管理職になったことで残業代が支給されなくなり、かえって昇進前より給与が下がってしまった場合、「管理職だから残業代が出なくても仕方ない」と諦めてしまう必要はありません。
前項でご紹介した3つの判断要素に照らし合わせて、“管理監督者”と判断されない限り、あなたには働いた分の残業代を受け取る権利があります。
管理監督者でないなら、違法になる
3つの要素から判断して、労働基準法上の管理監督者に該当しないと判断された場合は、たとえ会社の職制上、管理職であったとしても、残業代の支払いを受けることができます。
冒頭の例では、Aさんが管理職に昇進したとしても管理監督者にあたらない限りは、役職手当とは別に、これまでどおりに残業代が支払われなければなりません。
会社がAさんに残業代を支払わなければ、違法となります。
管理監督者であるなら、違法にならない可能性が高い
他方、上記の3つの判断要素などから、管理監督者にあたると判断されるような場合は、普通残業代と休日割増賃金は支給されません。
ただし、管理監督者であっても、深夜割増賃金(22時~5時までに労働した場合に支給される賃金)は支給されます。
もっとも、ここで読者の皆さんに、ぜひともご注意していただきたいのは、ある人が管理監督者に該当するかどうかは、法律家間でも判断が分かれる難しい問題であるということです。ですから、ご自身で判断したりせず、迷ったら弁護士にお気軽に相談してみてください。
未払い残業代が発生していれば、請求できる可能性がある
管理監督者には該当しないにもかかわらず、残業代が支給されていないような場合は、未払い残業代が発生している可能性があります。その場合は次のような対処法があることを紹介していきます。
自分で会社と交渉する
まずは、自ら会社に残業代を支払ってくれるよう要求することが考えられます。しかし、会社と一従業員では力の差が歴然ですし、管理監督者に該当するか否かのような判断が難しい争点について交渉することは、一般の方には難しいことが多いです。
また、本来もらえるはずの金額よりも、ずっと少ない金額を提示されて言いくるめられてしまう危険もあります。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署に相談することも可能ですが、会社が「管理監督者にあたると考えます」と反論してきたときに、徹底的に会社と争ってくれるかどうかはわかりません。
また、資料を精査して残業代の正確な計算をしてくれるわけでもありません。したがって、いざ管理監督者にはあたらないとわかったとしても、未払い残業代がいくらになるかについては、結局ご自身で計算しなければならないのです。
弁護士に相談する
弁護士に依頼をすれば、弁護士費用が必要になります。しかし、会社側が「管理監督者にあたる」と主張をしてきた場合でも、弁護士から法律論に基づいた反論を行ってくれます。
また、管理監督者ではないと判断されたあとには、弁護士が、未払い残業代がいくらになるのか緻密に計算してくれますし、法的根拠をきっちり示したうえで会社に請求してくれます。
もし、会社が残業代を支払ってくれなくても、粘り強く交渉し、それでも支払ってくれないようなら、労働審判や訴訟に移行して、あなたの代わりに徹底的に戦ってくれるのです。
まとめ
管理監督者とは、ご紹介した3つの判断要素などを慎重に考慮して、ようやく認められるものであり,裁判例上,管理監督者性は容易に認められるものではありません。たとえ管理職であったとしても、管理監督者ではないことのほうが多いのです。
ですから、もし管理職であることを理由に、会社から残業代が支払われていないような場合は、自分が管理監督者にはあたらないことを前提に、未払い残業代を請求することを考えてみてください。
もっとも、管理監督者に該当するかどうかは、残業代が0になるか100になるかの違いとなって現れますので、労使間で熾烈な争いになることが多いです。また、法律専門家の間でさえ判断が分かれる難しい争点でもあります。
したがって、法律知識のない方が、管理監督者性を争って残業代請求をすることは難しいです。
もし、管理職になったことで、残業代が支給されなくなったような場合には、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。
監修者情報
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資格
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弁護士、行政書士(有資格)、華語文能力試験高等(台湾)
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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早稲田大学第一文学部、台湾大学大学院法律研究所、早稲田大学大学院法務研究科
人が法律事務所の門を叩くときは、どんな時でしょうか。もちろん個人によってさまざまなご事情があるでしょうが、人生において何か一つ区切りをつけて新たな出発をしたいと強く願っている点では、共通していると思います。先行きの見えないこんな時代だからこそ、その出発が希望に満ちたものでありますように。そのお手伝いをさせていただくことこそが弁護士の役割だと思っております。