みなし残業代とは?違法性や残業代請求の可能性を解説!
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「自分の会社は、給料にあらかじめ残業代が含まれる『みなし残業代』の制度を取り入れているから、残業代がもらえないのは当たり前」と思っている方が多くいらっしゃいます。しかし、いくら会社が「みなし残業代」の制度を導入していると言っていても、本当に適法に「みなし残業代」が支払われているとは限りません。
本コラムでは、会社から、みなし残業代の名目で何らかの手当をもらっているとしても、本当にそのみなし残業代の支払いが残業代の支払いとして有効なのか、あらためて残業代請求をできる可能性がないかについて、詳しくご説明いたします。
- 今回の記事でわかること
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みなし残業代とは何か
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会社から支払われているみなし残業代が残業代として有効かの判断基準
- 目次
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「みなし残業代」が出ていると、いくら残業しても残業代がもらえない?
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ある夫婦の残業代に関する会話
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みなし残業代とは
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みなし残業代は、違法?適法?
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あなたの会社のみなし残業代は本当に有効?その判断の目安とは
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入社時に合意が成立しているかどうか
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対価性があるかどうか
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明確区分性があるかどうか
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みなし残業代に対応する残業時間が過労死ラインを超えるかどうか
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みなし残業代を基礎賃金から控除すると、最低賃金を下回るかどうか
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まとめ
「みなし残業代」が支給されていると、いくら残業しても残業代がもらえない?
ある夫婦の残業代に関する会話
それでは、まず、残業して帰宅したA男とB子の残業代に関する会話を見てみましょう。
- B子
- おかえりなさい。今日も残業だったの?大変ね
- A男
- ただいま。うん、うちの会社はだいたい毎日1時間くらい残業があるんだ
- B子
- へえ。それじゃ、お給料日には残業代がたくさんもらえそうね
- A男
- いや、残業代は出ないよ
- B子
- えっ!?どういうこと?
- A男
- 社長によれば、うちの会社の給料には、あらかじめ30時間分の『みなし残業代』が含まれているらしい。だから、月の残業時間が30時間を超えない限り残業代は出ないんだって
- B子
- 本当に?ちょっと、給料明細書見せてもらってもいい?
- A男
- いいよ。ほら、ここに『職務手当』というのがあるだろう?これが30時間分の残業代になっているんだ
- B子
- そんな!
- A男
- だから、いまの会社で働いている限り、残業代はもらえないものとして諦めてるんだよ
みなし残業代とは
A男さんのように、会社から「うちは、あらかじめ30時間分の残業代として、『職務手当』(ほかにも精勤手当、営業手当、時間外手当等々の名称がついている場合があります)を支払っているから、毎月30時間以上残業しないと残業代は出ないよ」と言われたことのある方はいませんか。
このように、あらかじめ一定額の手当として支払う残業代のことを、みなし残業代(固定残業代)といいます。
みなし残業代は、違法?適法?
会社の賃金体系として、みなし残業代を導入すること自体は違法ではありません。みなし残業代の制度には、以下のように労働者と会社(雇用主)双方にメリットがあるのです。
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労働者側
実際の残業時間が20時間だったとしても、30時間分の残業代がもらえるから、仕事のやり方を工夫して効率を上げれば上げるほど得をする。
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会社側
給与計算の事務処理のコスト軽減を図れる。
しかし、みなし残業代制が、本当の残業時間に応じた正確な残業代の支払いを逃れたい会社側の方便として使われることがあるのも、また事実です。
そこで、以下では、会社が「うちは、みなし残業代制をとっているから、残業しても残業代は出ないよ」と言ってきた場合に、それがホントかウソかを見分ける方法をご紹介しましょう。
あなたの会社のみなし残業代は本当に有効?その判断の目安とは
ここでは、あなたの会社のみなし残業代が有効かどうかの判断基準をご紹介したいと思います。
入社時に合意が成立しているかどうか
みなし残業代制が有効といえるためには、入社の時点で、どの手当がみなし残業代であって、そこに何時間分のみなし残業代が含まれているかについて、労働者が会社からしっかりとした説明を受け、会社と労働者との間でみなし残業代についての合意が成立していることが必要です。
もし、読者の皆さんのなかに、入社時に会社からみなし残業代について何の説明も受けていない人がいるとしたら、みなし残業代制は無効といえます。
冒頭のA男は、社長から「職務手当は30時間分のみなし残業代だ」と言われて諦めてしまっていますが、このような説明は入社時に行われていなければなりません。もし、A男が残業代請求をしたときにはじめて、「実は、職務手当が30時間分のみなし残業代でした」と社長が言ったのであれば、このみなし残業代制は無効です。
ポイントは、入社時に、労働者がきちんとした説明を受け、会社との間で合意したかどうかです。もし、お手元に雇用契約書や労働条件通知書があれば、「賃金」欄を見てみましょう。そこに「職務手当」という手当が支払われる旨は記載されているのに、30時間分の残業代として支払う旨が書かれていないような場合は、入社時においてもきちんとした説明を受けていないことが多いです。
なお、仮に会社が入社時にきちんと「職務手当は30時間分のみなし残業代だ」と説明し、労使双方でこの点の合意が成立し、みなし残業代制が有効だったとしても、30時間を超えた残業については、別途に残業代がもらえるのは当然です。
対価性があるかどうか
ある手当がみなし残業代として支払われているというためには、その手当が時間外労働の対価として支払われていることが必要です。たとえば、「技術手当」のようなものは、身に付けた技術に対する対価であって、残業の対価としての実質を持たないので、これらの手当を支払ってもみなし残業代の支払いとして有効とはなりません。
もし、手元に就業規則や賃金規程があるならば一度読んでみましょう。冒頭のA男の例において、就業規則に「職務手当は、職務の難易度や責任に応じて支払う」と規定されているとすれば、職務手当は、あくまでも職務の難易度や責任の対価であって、残業の対価とはいえませんから、いくら社長が「職務手当は、30時間分の残業代として支払っている」と言ったとしても、みなし残業代の支払いとしては無効です。
明確区分性があるかどうか
みなし残業代は、冒頭の「職務手当」のように、独立した手当として支払われる場合(固定手当型)もありますが、ほかにも、「基本給」の中に組み込まれている場合(基本給組込型)があります。
固定手当型であれば、職務手当の全額がみなし残業代なのだと明確に区別できますが、基本給組込型のように、基本給として受け取っている金額(たとえば,月額24万円)の中にみなし残業代が組み込まれている場合には、基本給のうちのどの部分が本当の基本給で、どの部分がみなし残業代なのかが、明確に区別できないことがあります。
しかし、これでは、労働者が、自分の残業時間に見合った残業代をきちんと支払ってもらっているかどうかを確認できませんし、会社が正当な残業代の支払いを逃れようとするのを助長することにもなりかねません。
そこで、基本給の一部がみなし残業代の支払いとして有効となるためには、基本給のうち、どの部分が残業代の対価としての部分で、どの部分が基本給の部分なのかが、明確に区別できなければなりません。具体的には、就業規則や賃金規程、雇用契約書等に、基本給に含まれる残業代の金額や割合、相当する残業時間が明記されていなければなりません。
たとえば、就業規則や雇用契約書に「基本給にはみなし残業代が含まれる」程度の規定しかなかったならば、みなし残業代の支払いとして無効です。「基本給のうち4万円は残業代として支給する」といったように、具体的に規定しなければ有効となりません。
みなし残業代に対応する残業時間が厚労省の過労死ラインを超えるかどうか
会社側から、一見するとかなり高額のみなし残業代が支給されているものの(たとえば月額20万円)、それが厚生労働省の過労死ラインを上回る100時間分の残業時間に相当するような場合は、過労死を招きかねない危険な賃金制度そのものが公序良俗に反するため無効、と主張していくことが可能です。
みなし残業代を基礎賃金から控除すると、最低賃金を下回るかどうか
たとえば、会社の給料が「基本給(12万円)+職務手当(8万円)」の二つの費目から構成されていて、会社が「職務給はみなし残業代だ」と言っているような場合、給料の総額からみなし残業代を引くと、基本給が12万円しかないことになり、これでは最低賃金を下回ります。このように、みなし残業代を差し引いた基本給のみでは最低賃金を下回るような場合、職務給はみなし残業代の支払いとしては認められない、と主張していくことが可能です。
まとめ
以上のように、会社のみなし残業代制が実は無効であるといったケースは、意外に多いのです。無効だった場合にどうなるかというと、たとえば、冒頭の例で職務手当として毎月5万円の支給を受けていた場合、これがみなし残業代として無効だったことになれば、毎月5万円ずつの残業代が未だ支払われていなかったことになり得ます。さらに、残業代の計算の基礎となる基礎時給の計算にも、職務手当が組み込まれることになるので、計算上有利になります。したがって、みなし残業代制が有効か無効かは、残業代請求においては極めて重要なのです。
ところが、会社から自信満々に「ウチはみなし残業代制だから、いくら残業しても残業代は出ないよ」と言い切られたとき、法律知識がない労働者が「それは違う」と明確に否定できる場合は決して多くありません。
そこで、読者の皆さんにぜひ一つ知っておいていただきたいことは、法律事務所を気軽に利用してみるということなのです。
アディーレ法律事務所では、労働法に詳しい弁護士が多く在籍しており、会社の主張を一つ一つ精査し、皆さまが長時間労働したにも関わらずもらいそびれてきた残業代を取り戻せるようサポートいたします。
着手金は無料ですから、「まずは弁護士費用を貯金してから…」などと我慢する必要はありません。残業代請求をしたいと思い立ったら、いつでも気軽に始められるのです。また、アディーレ法律事務所のサービスの特徴として「損はさせない保証」というものがあり、原則として、残業代請求に成功したときだけ、得られた残業代の範囲内で弁護士費用をいただきます。ですから、残業代請求をしてみた結果、未払い残業代が認められなかった場合には、弁護士費用をいただくことはありません。損をしないのであれば、やるだけやってみてもよいのではないでしょうか。
会社の賃金体系がみなし残業代制だと言われたとしても、諦めるのはまだ早いです。ぜひ、アディーレ法律事務所で残業代請求をしてみませんか?
監修者情報
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資格
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弁護士、行政書士(有資格)、華語文能力試験高等(台湾)
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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早稲田大学第一文学部、台湾大学大学院法律研究所、早稲田大学大学院法務研究科
人が法律事務所の門を叩くときは、どんな時でしょうか。もちろん個人によってさまざまなご事情があるでしょうが、人生において何か一つ区切りをつけて新たな出発をしたいと強く願っている点では、共通していると思います。先行きの見えないこんな時代だからこそ、その出発が希望に満ちたものでありますように。そのお手伝いをさせていただくことこそが弁護士の役割だと思っております。