監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 青山学院大学法学部,専修大学法科大学院
弁護士の仕事は,法的紛争を解決に導くことだけでなく,依頼者の方の不安や悩みを解消することにもあると考えています。些細なことでも不安や悩みをお持ちであれば,気軽に弁護士に相談していただけたらと思います。依頼者の方にご満足いただけるリーガル・サービスを提供していけるよう全力で取り組んでいく所存です。
残業代請求コラム
公開日:
華やかなイメージのある業界ですが、広告代理店でお仕事をされている方は、職務の性質上、残業が多くなる傾向にあります。たとえば、「クライアントからの急な変更依頼があって、対応しないといけない」、「納期がそもそも厳しく、残業しないと終わらない」、「外回りの営業が多いのに、会社に戻ってからも遅くまでデスクワークをしないといけない」など、業界全体に“残業して当然”という空気があるかもしれません。もちろん、会社によって程度の差はあると思いますが、どの広告代理店も総じて長時間労働になりがちであり、某広告代理店に勤務していた女性が過労自殺された、大変痛ましい事件も記憶に新しいと思います。
そこで、本コラムでは、広告代理店で勤務する方に知っておいてほしい、裁量労働制の基礎知識や残業代請求のポイントなどについて、解説していきたいと思います。
会社に残業代の話をしても、「うちは裁量労働制だから、いくら仕事をしても残業にはならないし、残業代は出ないよ」と言われたことはありませんか?
では、そもそも「裁量労働制」とはどのようなものでしょうか?
裁量労働制とは、業務の遂行方法等につき大幅に労働者の裁量にゆだねる必要のある業務について、あらかじめ定めた労働時間分、労働したものとみなす制度のことをいいます。
具体的にご説明すると、「1日の労働時間は8時間とみなす」と定めている場合、実際には3時間しか働かなくても、8時間働いたものとみなされますし、10時間働いたとしても、8時間働いたものとみなされるということです。
そのため、会社側は、「裁量労働制だから、残業代は支払わない」と言ってくることがあります。しかし、その会社側の主張は、本当に正しいのでしょうか?まずは、あなたが従事している業務は、“裁量労働制が適用される業務に該当するかどうか”をきちんと確認すべきです。
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、どちらが適用されるかは業務によって異なります。
まず、「専門業務型裁量労働制」について、労働基準法上は、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの」とされています。具体的には、研究開発、出版・放送事業等の取材や編集、システムコンサルタント、弁護士や公認会計士といった19業務が対象です。
次に、「企画業務型裁量労働制」について、労働基準法上は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされています。たとえば、経営状態や経営環境等において調査を行い、経営に関する計画を策定する業務や、現行の人事制度の問題点やそのあり方等の調査分析を行い、新たな人事制度を策定する業務を行う労働者などが対象となります。
さらに具体的に規則等で細かく記載されていますが、広告代理店の方に関係ない業務の定めも多いので、ここでは省略します。
前述した2種類の制度のうち、広告代理店で勤務されている方が該当する可能性があるものは、専門業務型裁量労働制の対象業務である「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務」と、企画業務型裁量労働の対象業務である「広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・考案する業務」あたりかと思われます。もちろん、これ以外の対象業務に該当する可能性も十分に考えられますので、ケースバイケースの判断が必要です。
いかがでしょうか。法が定める裁量労働制が適用される業務の範囲は“狭い”と思われたのではないでしょうか?
広告代理店で勤務されていたとしても、これらの業務に従事していなければ、裁量労働制は適用されません。たとえば、広告代理店で営業に関する業務に従事されている方は、裁量労働制が適用される業務には従事していないことになりますので、裁量労働制の対象にはならないのです。そのため、残業すればその分残業代が発生することになります。
では、広告代理店のデザイナーやコピーライターなど、裁量労働制が認められる業務に従事していた場合には、残業代は支払われないのでしょうか?
いいえ。法が求める条件をクリアしていなければ、裁量労働制は適用されません。それでは、どんな条件をクリアすれば法的に裁量労働制と認められるのかを見ていきましょう。
専門業務型裁量労働制が適用されるには、「①当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関して使用者が具体的な指示をしないこと」、そして、「②労使協定の締結・届出」が必要となります。そのため、上記に該当する業務に従事していたとしても、会社から業務の進め方や時間配分に関する具体的な指示をされていたり、労使協定を作っていない場合には、裁量労働制は適用されないことになります。つまり、残業をすれば、残業代が発生することになります。
企画業務型裁量労働制が適用されるには、「①対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であること」、「②対象業務が存在する事業場において、労使委員会の決議・届出がなされていること」が必要です。そのため、上記の業務に該当する業務に従事していたとしても、たとえば、そもそも新卒で当該業務の経験がないといった場合には、「知識・経験がない」と判断される可能性があり、裁量労働制が適用されないことになります。つまり、残業すれば、残業代が発生することになるのです。
細かいことや専門的な内容も説明してきましたが、広告代理店で勤務しているからといって、必ずしも裁量労働制が適用されるわけではないこと、裁量労働制が適用されるためにはさまざまな条件をクリアしないといけないことをご理解いただけたのではないかと思います。もし、少しでも気になることがあれば、労働問題に精通したる弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか?
弁護士の仕事は,法的紛争を解決に導くことだけでなく,依頼者の方の不安や悩みを解消することにもあると考えています。些細なことでも不安や悩みをお持ちであれば,気軽に弁護士に相談していただけたらと思います。依頼者の方にご満足いただけるリーガル・サービスを提供していけるよう全力で取り組んでいく所存です。
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